【日常捜査ファイルNo.009】テレビをつけた瞬間CMになる事件

【日常捜査ファイルNo.009】テレビをつけた瞬間CMになる事件

  • 事案名称: 同期型商業放送強制受信現象、通称「インスタント・コマーシャル・ショック」
  • 警戒レベル: ★★★★☆(見たい番組の核心部分を逃す精神的ダメージ大)
  • 捜査難易度: ★★★★☆(放送局のタイムテーブルという巨大な壁が立ちはだかる)
  • 被害対象: 帰宅直後に急いで電源を入れた者、および「良いところで」チャンネルを変えた全人類
  • 目撃情報: リビングのソファ、夕飯時のダイニングテーブル、スポーツ中継の決定的瞬間

現場証言:被害者たちの叫び

「好きなアーティストが出るって聞いて、慌ててテレビをつけたら洗剤のCMでした。やっと番組に戻ったと思ったら、推しが『ありがとうございましたー!』ってお辞儀してました……。」

(20代・学生)

「『この時間、何やってるかな』と思ってチャンネルを変えたらCM。もう一つ変えてもCM。なんと5局連続でCMでした。テレビ局同士で裏口協定でも結んでるんですか?」

(40代・会社員)

「CMこそが本編なのです。番組はただの休憩時間。そう思えば、どんなタイミングでテレビをつけても心穏やかに過ごせます。」

(70代・ベテラン被害者)

事件発生のファイル

「フゥ……。今日もまた厄介な事件(バグ)が舞い込んできたな。」

日常捜査課のデスクで、私は深くため息をつきながら淹れたての深煎りブラジル産コーヒー(※給湯室にあったインスタント)をすすった。

今回の事件は、我々の「期待」を一瞬にして「絶望」へと変換する、極めて悪質な事案である。

時計を見て「あっ、番組が始まってる!」と慌ててリモコンの電源ボタンを押した瞬間、見たい映像ではなく、企業の大音量ジングルと共に爽やかなCMが流れ始めるという怪現象だ。

さらにタチが悪いのは、気を取り直して他のチャンネルに逃げよう(ザッピング)とした際、移動先のすべての局が申し合わせたかのようにCMを放送していることである。この巧妙な電波ジャックの背後には、我々の視聴意欲を削ぎ落とそうとする巨大な力が働いているに違いない。私はただちに現場の状況を分析し、容疑者の洗い出しを開始した。

容疑者一覧(電波ジャックの黒幕たち)

「うーむ……これは実に興味深い。単なる偶然にしては、あまりにもタイミングが完璧すぎる。」

私は張り込み用のお気に入りあんぱんをかじりながら、思考の海へと深く潜っていった。当日常捜査課がリストアップした、3つの恐るべき容疑者をここに記す。

  • 第一の容疑者:テレビ業界の巧妙な「ザッピング対策」(現実度:高)各テレビ局が視聴率を逃さないために、他局の番組がCMに入るタイミング(毎時45分や55分など)を見計らって、あえて自局も同時にCMを入れるという業界の構造的な容疑者。つまり、我々が「キリの良い時間」にテレビをつけた時、すべての局が意図的にCMを流しているという、極めて現実的で身も蓋もない見解である。
  • 第二の容疑者:視聴者心理操作結社「タイミング・スポンサー」(現実度:中)テレビに内蔵された隠しカメラやマイクが、エージェント(私)の「よし、見るぞ!」という期待に満ちた息遣いを検知。その瞬間に放送局へ極秘シグナルを送り、強制的にCMを差し込むという説。期待値が最高潮に達した状態の人間に商品を見せつけることで、購買意欲を限界まで引き出すための洗脳プログラムなのだ。なお、当捜査課ではこの監視装置を発見すべくリモコンを徹底的に分解・調査したが、現在のところ発見されたのは「いつこぼしたか分からない、ボタンの隙間のベタベタしたジュースの跡」だけである。
  • 第三の容疑者:量子力学における「シュレディンガーの放送局」(現実度:低・妄想)電源を入れるまで、テレビの中は「本編」と「CM」が重なり合った状態(量子状態)で存在している。観測者(私)が「本編を見たい!」と強烈な欲望を持って画面を観測した瞬間、宇宙のバグにより確率が反発し、強制的に「CMの世界線」へと収束してしまう現象。我々の欲望そのものが、CMを錬成しているのである。

華麗なる迷宮入り

「事態は我々が思っているより深刻かもしれないな……。」

私は難解な捜査に疲れ果て、少し息抜きをしようと捜査課のテレビに手を伸ばした。

「フゥ……こんな時は、お気に入りの動物ドキュメンタリー番組でも見て癒やされるに限る。」

私はリモコンの電源ボタンを押した。

『♪〜 期間限定!特製クリームパン、今なら20円引き!!』

画面いっぱいに、黄金色に輝くクリームパンが大写しになった。

「…………。」

私は無言で、手元にあったはずの「張り込み用あんぱん」を探した。しかし、それはすでに私の胃袋の中に消えていた。画面の中で割られるクリームパンの映像が、私の空腹中枢を容赦なく刺激してくる。

「……買いに行くか。」

テレビ業界の構造か、あるいは宇宙の量子的な悪意か。今回もまた、決定的な証拠を掴むことはできなかった。探偵帽を深くかぶり直し、私は無意識のうちに財布を握りしめていた。謎がそこにある限り、日常捜査課の戦いは終わらない。

【捜査報告書】

  • 捜査結果決定的証拠なし(見事にCMの洗脳を受け、パン屋へ直行)
  • 有力な容疑者第一の容疑者(各局同時のザッピング対策)
  • カピ主任の見解「テレビをつけた瞬間にCMが流れるのは、宇宙からの『テレビを見る前に腹ごしらえをしろ』というメッセージなのだ。……クリームパン、まだ残っているだろうか。」
  • 捜査状況継続中

私は財布をコートのポケットに押し込み、新たな事件ファイルを手に取った。

次の現場は――どうやら、自分の手の中らしい。

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