【日常捜査ファイルNo.010】スマホを探している時にスマホのライトを使う事件

【日常捜査ファイルNo.010】スマホを探している時にスマホのライトを使う事件

  • 事案名称: 自己矛盾型光源依存現象、通称「ファントム・ライト・サーチ」
  • 警戒レベル: ★★★★☆(発見した瞬間に襲い来る「己のIQに対する絶望感」が著しい)
  • 捜査難易度: ★★★★★(犯人が「自分自身」であるため、完全なる密室犯罪となる)
  • 被害対象: 暗闇で焦る者、己の無意識を制御できない全人類
  • 目撃情報: 深夜のベッドの上、カバンの底を探る路上、停電時のリビング

現場証言:被害者たちの叫び

「夜中に目が覚めて、スマホがない!とパニックに。暗いからとりあえず手元のスマホでライトを点けて、ベッドの下を5分間真剣に照らして探しました。……気づいた時、自分の頭のネジが飛んだのかと思いました。」

(20代・学生)

「カバンの中でスマホが見つからなくて、焦って家族に『スマホ鳴らして!』ってLINEを送ったんです。もちろん、自分のスマホから。家族からの『今それ打ってるの何?』という返信で我に返りました。」

(30代・会社員)

「己の手の中にある青い鳥(スマホ)には気づかない。人間とは、常に遠くの幻影を追い求める悲しき生き物なのです。」

(70代・ベテラン被害者)

事件発生のファイル

「フゥ……。今日もまた厄介な事件(バグ)が舞い込んできたな。」

日常捜査課のデスクで、私は深くため息をつきながら淹れたての深煎りブラジル産コーヒー(※給湯室にあったインスタント)をすすった。

今回の事件は、現代人のテクノロジーへの過剰な依存が生み出した、極めて自己矛盾に満ちた事案である。

暗闇の中でスマートフォンを見失った際、それを見つけ出すための「光源」として、まさに今自分が探しているはずのスマートフォンのライト機能を使用してしまうという怪現象だ。

右手にスマホをしっかり握りしめ、その眩しい光で「スマホがない、どこだ!」と必死に床を照らしている時の姿は、滑稽を通り越して哲学的な恐怖すら覚える。一体なぜ、我々は手のひらにある「確かな質量」を脳内で完全に無視してしまうのか。私はただちに現場の状況を分析し、容疑者の洗い出しを開始した。

容疑者一覧(認知機能ハッキングの黒幕たち)

「うーむ……これは実に興味深い。外部からの物理的な干渉ではなく、対象者の認知機能そのものを書き換える手口だ。」

私は張り込み用のお気に入りあんぱんをかじりながら、思考の海へと深く潜っていった。当日常捜査課がリストアップした、3つの恐るべき容疑者をここに記す。

  • 第一の容疑者:脳のオートメーション機能「手続き記憶の暴走」(現実度:高)現代人は「暗い」=「スマホのライトを点ける」という動作を、完全に無意識の領域(手続き記憶)にプログラムしている。そのため「スマホを探す」という大目的よりも先に、「暗いから照らす」というショートカットキーが脳内で誤作動を起こして実行されてしまうという心理学的な容疑者。あまりにも現実的で、現代病とも言える見解である。
  • 第二の容疑者:感覚遮断結社「デジタル・シャドウ」(現実度:中)人間の「触覚」を一時的に麻痺させる特殊なジャミング電波を放つ裏組織の存在だ。彼らはターゲット(私)がスマホを握っているという「手のひらの感覚」だけをピンポイントで消去し、暗闇の中で混乱する姿を監視カメラ越しに見て楽しんでいるのである。なお、当捜査課ではこのジャミング電波の発生源を特定すべくスマホの通信履歴を徹底的に解析したが、現在のところ発見されたのは「深夜のテンションで衝動買いした謎の健康器具の注文完了メール」だけである。
  • 第三の容疑者:量子力学における「スマホの二重スリット実験」(現実度:低・妄想)スマホは「手の中にある(光源)」状態と、「どこかで紛失している(探索対象)」状態が重なり合った量子状態(スーパーポジション)で存在している。観測者(私)が「スマホはどこだ!?」と強く疑った瞬間、世界線が分岐し、探している間だけ一時的にスマホは「手の中にあるが、手の中にない」という矛盾した四次元的バグを引き起こしているのだ。

華麗なる迷宮入り

「事態は我々が思っているより深刻かもしれないな……。」

私は難解な推理に疲れ果て、当課の薄暗い資料室で過去のファイルを漁っていた。

「うーむ、あの資料はどこだ……暗くて見えないな。」

私は無意識に右のポケットに手を入れ、スマートフォンのライトを点灯させた。

「よし、これで明るくなったぞ。」

眩しいLEDの光で棚の奥を照らしながら、私はふと重要なことに気がついた。

「そうだ、この捜査の進捗を本部に連絡しなければ。……あれ? 私のスマホはどこだ?」

私はライトで机の下を照らし、書類の束を照らし、自らの足元を照らした。ない。どこにもない。

「おかしい……さっきまで確かにここにあったはずだ!」

私は右手に握りしめた光の束(スマホ)を振り回しながら、資料室を15分間探し回った。そして、画面に映し出された自分の顔の反射を見て、ようやくすべての真実を悟った。

「…………。」

手続き記憶の暴走か、あるいは量子力学的なバグか。今回もまた、犯人は「己のポンコツな脳」という名の迷宮に潜んでいた。探偵帽を深くかぶり直し、私はそっとライトの電源を切った。謎がそこにある限り、日常捜査課の戦いは終わらない。

【捜査報告書】

  • 捜査結果決定的証拠なし(己の愚かさを照らし出す結果となった)
  • 有力な容疑者第一の容疑者(脳の手続き記憶の暴走)
  • カピ主任の見解「灯台下暗しと言うが、まさにその通りだ。我々は光を求めているようで、実はその光の出どころに一番気づいていないのだ……。」
  • 捜査状況継続中

私は熱くなったスマホをポケットにしまい、新たな事件ファイルを手に取った。

次の現場は――どうやら、パソコンのUSBポートらしい。

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