【日常捜査ファイルNo.011】USB端子、必ず3回目で刺さる事件

【日常捜査ファイルNo.011】USB端子、必ず3回目で刺さる事件

  • 事案名称: 三次元的確率の収束異常、通称「サード・タイム・パラドックス」
  • 警戒レベル: ★★★☆☆(物理的ダメージはないが、地味にイライラが蓄積する)
  • 捜査難易度: ★★★★☆(量子的ゆらぎが絡むため、科学的立証が極めて困難)
  • 被害対象: Type-AのUSB端子を愛用し続ける全人類
  • 目撃情報: パソコンの側面、テレビの裏側、暗闇の中の充電アダプタ

現場証言:被害者たちの叫び

「刺さらないから裏返したのに、それでも刺さらない。仕方なくもう一度最初の向きに戻したら、なぜかすんなり刺さるんです。あの2回目の裏返しは一体何だったのでしょうか?」

(20代・学生)

「事前に端子の中の『プラスチックの板の位置』をガン見して、絶対に合っていると確信して差し込んだのに、1回目は弾かれました。端子側が意図的に私を拒絶しているとしか思えません。」

(30代・会社員)

「USBのType-Aとは、信仰心が試される修行なのだ。三度の試練を乗り越えた者のみが、デバイスとの接続を許される。」

(70代・ベテラン被害者)

事件発生のファイル

「フゥ……。今日もまた厄介な事件(バグ)が舞い込んできたな。」

日常捜査課のデスクで、私は深くため息をつきながら淹れたての深煎りブラジル産コーヒー(※給湯室にあったインスタント)をすすった。

今回の事件は、数学的な確率論を真っ向から否定する、極めてオカルトチックな事案である。

USB端子(Type-A)には「表」と「裏」の2つの面しか存在しない。つまり、適当に刺しても確率は50%(2分の1)のはずである。しかし現実はどうだ。

1回目(刺さらない)→ 裏返す → 2回目(刺さらない)→ さらに裏返す → 3回目(なぜか刺さる)という、確率の法則を無視した怪現象が世界中で多発しているのだ。

なぜ最初の向きでそのまま刺さらなかったのか。この四次元的な密室構造の謎を解き明かすべく、私はただちに現場の状況を分析し、容疑者の洗い出しを開始した。

容疑者一覧(接続拒絶の黒幕たち)

「うーむ……これは実に興味深い。単なる偶然にしては、あまりにも3回目の成功率が高すぎる。」

私は張り込み用のお気に入りあんぱんをかじりながら、思考の海へと深く潜っていった。当日常捜査課がリストアップした、3つの恐るべき容疑者をここに記す。

  • 第一の容疑者:人間の自信の無さと「挿入角度のブレ」(現実度:高)実は1回目の向きは合っていた。しかし、わずかに角度が斜めになっていたため、端子につっかえて物理的に弾かれただけである。そこで人間は「裏だったか」と誤認して裏返し、当然2回目は物理的に刺さらず、3回目に「ええい!」と真っ直ぐ押し込んだ結果、見事に合致するという心理学かつ物理学的な容疑者。極めて現実的で身も蓋もない見解だ。
  • 第二の容疑者:PC内部のインターフェース防衛結社「タイプA・ガード」(現実度:中)パソコンの端子内部に潜む妖精、あるいは防衛プログラムによる組織的犯行である。彼らは外部からの侵入者(USBメモリ)に対して非常に警戒心が強いため、最初の2回は見えないシールドを張って物理的に拒絶している。3回目まで諦めなかった者だけを「真の所有者」と認め、ゲートを開放するのだ。なお、当捜査課ではこのシールド発生装置を特定すべくPCの側面を徹底的に調査したが、現在のところ発見されたのは「2018年から放置されている巨大なホコリの塊」だけである。
  • 第三の容疑者:量子力学における「シュレディンガーのUSB」(現実度:低・妄想)USB端子は、刺し込む直前まで「表」と「裏」が重なり合った量子状態(スーパーポジション)で存在している。人間が1回目、2回目と観測(接触)を試みることで確率の波が収束し、3回目のアタックによってようやく三次元空間における「正しい向き」が確定するという宇宙規模のバグである。

華麗なる迷宮入り

「事態は我々が思っているより深刻かもしれないな……。」

私はこれまでの捜査資料をバックアップするため、手元のUSBメモリを捜査課のノートPCに刺し込もうとした。

1回目、カチャッ。刺さらない。

「フッ、やはりな。」

私は慣れた手つきでUSBを裏返し、2回目に挑んだ。カチャッ。刺さらない。

「想定内だ。ここからが本番だからな。」

私はニヤリと笑い、USBを再び裏返して最初の向きに戻し、力強く3回目を押し込んだ。

ガリッ。

刺さらない。いや、刺さらないどころか、嫌な音がした。

私は慌てて手元を覗き込んだ。

「…………。」

私がUSBメモリを全力で押し込んでいた場所。そこはUSBポートではなく、隣にある「HDMI端子」の穴であった。

「フゥ……無念だ。」

角度のブレか、あるいは量子のゆらぎか。今回もまた、決定的な証拠を掴むことはできなかった。探偵帽を深くかぶり直し、私は無惨にひしゃげたUSBメモリの先端を見なかったことにした。謎がそこにある限り、日常捜査課の戦いは終わらない。

【捜査報告書】

  • 捜査結果決定的証拠なし(重要な捜査データのバックアップに失敗)
  • 有力な容疑者第一の容疑者(己の自信の無さと挿入角度のブレ)
  • カピ主任の見解「上下の概念がない『Type-C』の発明は、人類の歴史において火の発見に等しい偉業だ。……それでも我々は、Type-Aが教えてくれた忍耐を忘れてはならない。」
  • 捜査状況継続中

私はひしゃげたUSBメモリをそっと引き出しの奥に封印し、新たな事件ファイルを手に取った。

次の現場は――どうやら、バスルームらしい。

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