【日常捜査ファイルNo.021】スーパーで知り合いを見かけた気がする事件

【日常捜査ファイルNo.021】スーパーで知り合いを見かけた気がする事件

  • 事案名称: 擬似遭遇的隠密回避現象、通称「スーパーマーケット・ステルス」
  • 警戒レベル: ★★★★☆(「声掛け」という致命傷を避けるため、極度の緊張と体力・精神力を消耗する)
  • 捜査難易度: ★★★★★(相手の顔を直視して本人確認をした時点でゲームオーバーとなるため、検証不可能)
  • 被害対象: 部屋着、ノーメイク、寝癖など、社会的防具を装備せずに油断して来店した全人類
  • 目撃情報: 野菜売り場の角、特売品のワゴン越し、遠くのレジの列

現場証言:被害者たちの叫び

「洗剤コーナーを曲がった瞬間、遠くに職場の先輩らしき姿が見えました。私は毛玉だらけのスウェット姿だったので、音を立てずに後ずさりし、そのまま15分間、用もないのにペット用品コーナーに身を潜めていました。」

(20代・学生)

「思い切って『あっ、お疲れ様です!』と満面の笑みで近づいたら、髪型が似ているだけの完全な別人でした。私はそのまま滑らかな動きで、その人の横にあった『ポン酢』を真剣な顔でカゴに入れました。」

(30代・会社員)

「スーパーとは戦場だ。一度ターゲット(知人)を視界に捉えたら最後、店内のすべての動線を計算し、絶対に鉢合わせない『裏ルート』を構築しなければならないのだよ。」

(70代・ベテラン被害者)

事件発生のファイル

「フゥ……。今日もまた厄介な事件(バグ)が舞い込んできたな。」

日常捜査課のデスクで、私は深くため息をつきながら淹れたての深煎りブラジル産コーヒー(※給湯室にあったインスタント)をすすった。

今回の事件は、我々の「完全なオフ状態」という無防備な精神を背後から狙い撃ちにする、極めてスリリングな心理トラップである。

「近所のスーパーだから誰にも会わないだろう」と油断し、気を抜いた格好で買い物をしている最中、通路の向こうに「知人(または知人に酷似した人物)」の姿を捉えた瞬間、脳内に緊急警報が鳴り響くという怪現象だ。

本当に本人なのか? もし本人だとして、挨拶をするべきか? いや、この格好を見られたくない。見つかる前に気配を消して逃げろ――。

このわずか数秒の間に行われる高度な戦術的撤退と、人間の防衛本能を弄ぶ「見間違い」の真相を、私が暴き出してみせよう。

容疑者一覧(視覚ハッキングの黒幕たち)

「うーむ……これは実に興味深い。平和なはずの買い物空間が一瞬にして『メタルギア』や『スプリンターセル』のような潜入任務へと変貌してしまうのだからな。」

私は張り込み用のお気に入りあんぱんをかじりながら、思考の海へと深く潜っていった。当日常捜査課がリストアップした、3つの恐るべき容疑者をここに記す。

  • 第一の容疑者:脳のエラー「防衛本能によるパレイドリア効果」(現実度:高)「誰にも会いたくない」という強い警戒心が脳の顔認識システムを暴走させ、似た背格好や髪型の人をすべて「知人」として誤認させるという心理学的な容疑者。つまり、脳が最悪の事態を想定して、過剰なフェイクアラート(誤警報)を鳴らし続けているのだ。極めて現実的で、己の自意識過剰さを呪うしかない見解である。
  • 第二の容疑者:スーパーマーケット結社「強制エンカウント同盟」(現実度:中)店舗の設計図の裏側に潜む、悪意ある動線デザイナーの仕業だ。彼らは店内の監視カメラで「隠れようとしている客」を特定すると、見えない磁場を操作し、ターゲット(知人)の乗ったカートをピンポイントで同じ通路へと誘導する。どんなに逃げ回っても、最終的に「レジの真後ろに並ばれる」という最悪のバッドエンドを強制的に引き起こすのだ。
  • 第三の容疑者:パラレルワールドからの「干渉ホログラム」(現実度:低・妄想)あれは本人でも見間違いでもない。別の並行宇宙から迷い込んだ「知人のドッペルゲンガー(立体映像)」である。スーパーマーケットという膨大な商品(情報)が密集する空間は時空の歪みを生みやすく、別の世界線で買い物をしている知人の姿が一瞬だけ投影されているという宇宙規模のバグなのだ。

華麗なる迷宮入り

「事態は我々が思っているより深刻かもしれないな……。」

私は糖分補給のため、近所のスーパーへと張り込み(買い出し)に向かった。休日のため、トレンチコートではなく、ヨレヨレのTシャツにジャージという完全な「オフ・スタイル」である。

「フッ、今日こそは誰にも見つからず、あんぱんだけを素早く回収して帰還する。」

私は忍者のような足取りでパンコーナーへと直行した。しかし、特売品のワゴンを曲がろうとしたその瞬間――視界の端に、捜査課の「鬼の経理部長」に瓜二つのシルエットを捉えた。

(……!! バカな、なぜこんな所に!)

私の脳内にレッドアラートが鳴り響く。私は即座に踵を返し、音もなく鮮魚コーナーへと身を隠した。

そこからが長かった。私はパック詰めのサンマを真剣に見つめるふりをしながら、部長の動きをミラー越しに監視し、精肉コーナー、冷凍食品コーナーと、完璧なステルス移動を繰り返した。

「よし……完全に撒いたぞ。」

私は安堵の息を吐き、誰とも目を合わせないように下を向きながらレジを通過し、店を出た。

見事な完全勝利である。私は己の隠密スキルの高さに酔いしれながら、自宅のアパートへと帰り着き、そしてエコバッグの中を覗き込んだ。

「…………。」

そこに入っていたのは、カモフラージュのために咄嗟にカゴに放り込んだ「サンマのパック」と「特大のポン酢」だけであった。

肝心のあんぱんは、パンコーナーの棚に残されたままである。

「フゥ……無念だ。」

過剰な防衛本能か、あるいはホログラムの罠か。今回もまた、ターゲットの正体という決定的な証拠を掴むことはできなかった。探偵帽を深くかぶり直し、私は夕飯のおかずが強制的にサンマになった現実を受け入れた。謎がそこにある限り、日常捜査課の戦いは終わらない。

【捜査報告書】

  • 捜査結果決定的証拠なし(完璧なステルス行動の代償として、本来の購入目的を見失ったため)
  • 有力な容疑者第一の容疑者(防衛本能の暴走による過剰なフェイクアラート)
  • カピ主任の見解「休日のスーパーにおいて、他人はすべて敵(知人)だと思え。……そして、何を買うつもりだったのかを忘れるな。」
  • 捜査状況継続中

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