【日常捜査ファイルNo.027】リモコン行方不明事件
【日常捜査ファイルNo.027】リモコン行方不明事件
- 事案名称: 局所的空間転移現象、通称「リモート・ロスト・イリュージョン」
- 警戒レベル: ★★★★☆(観たい番組が始まる直前のパニック状態や、夏の暑い日のエアコン起動不可による身体的ダメージが甚大)
- 捜査難易度: ★★★★★(部屋という完全密室で発生し、発見場所が毎回常軌を逸しているため)
- 被害対象: 飲み物とおやつを用意し、ソファに深く腰掛けて「さあ、くつろぐぞ」と完璧な態勢に入った全人類
- 目撃情報: クッションの裏、新聞紙の下、自分がさっきまで座っていたお尻の下、なぜか冷蔵庫の中
現場証言:被害者たちの叫び
「さっきまで確実に手に持っていたはずなのに、ちょっとスマホを見た隙に完全に姿を消しました。30分間部屋中をひっくり返して探し回り、結局自分が座っていたお尻の下から発掘されました。私はリモコンを温めて孵化でもさせるつもりだったのでしょうか?」
(20代・学生)
「エアコンのリモコンが見つからず、汗だくになって探したら、なぜか冷蔵庫のドレッシングの横にありました。麦茶を取り出した時に無意識に入れ替えたんだと思いますが、自分の脳のバグが恐ろしいです。」
(30代・会社員)
「リモコンとは、己の支配欲の象徴だ。それが失われるということは、世界(テレビ)に主導権を握られるということ。探すのではない、己の心とチャンネルを合わせるのだよ。」
(70代・ベテラン被害者)
導入:事件発生のファイル
「フゥ……。今日もまた厄介な事件(バグ)が舞い込んできたな。」
日常捜査課のデスクで、私は深くため息をつきながら淹れたての深煎りブラジル産コーヒー(※給湯室にあったインスタント)をすすった。
今回の事件は、我々の「至福のくつろぎタイム」を根底から破壊する、極めて悪質な密室ミステリーである。
つい数分前まで確かにテーブルの上にあった、あるいは手に持っていたはずのリモコンが、いざボタンを押そうとした瞬間に神隠しに遭ったかのように完全に姿を消すという怪現象だ。
部屋から一歩も出ていない以上、犯人(リモコン)はこの密室のどこかに確実に潜んでいる。それなのに、探せば探すほど迷宮の奥深くへと迷い込んでしまう。このリビングルームという閉鎖空間で繰り返される、四次元トラップの真相を私が暴き出してみせよう。
展開:容疑者一覧(空間転移の黒幕たち)
「うーむ……これは実に興味深い。これほどまでに鮮やかに、私の視界から物理的証拠(リモコン)を隠滅するとは。」
私は張り込み用のお気に入りあんぱんをかじりながら、思考の海へと深く潜っていった。当日常捜査課がリストアップした、3つの恐るべき容疑者をここに記す。
- 第一の容疑者:脳の「オートパイロット機能」による無意識の隠蔽(現実度:高)人間は「テレビを観る」という主目的の裏で、「飲み物を取る」「雑誌をどかす」といった別の行動をした際、無意識(オートパイロット)で手に持っていたリモコンをそこら辺に置いてしまう。脳はその「置いた」という動作を重要度の低いデータとして即座にデリートしてしまうため、後から探しても全く記憶にないという心理学的容疑者。己のポンコツな記憶力を呪うしかない見解である。
- 第二の容疑者:家具の隙間結社「ソファ・イーター」(現実度:中)リビングの覇者であるソファそのものが、リモコンを捕食する生きたトラップであるという説。彼らはクッションの間に複雑な迷路(ブラックホール)を形成しており、人間が油断してリモコンを置いた瞬間に、座面の摩擦を利用して奥深くへと引きずり込むのだ。彼らはリモコンから発せられる微弱な赤外線エネルギーを吸収して生きている。
- 第三の容疑者:リモコン自体が放つ「光学迷彩・カモフラージュ」(現実度:低・妄想)長年酷使されてきたリモコンが自我を持ち、「今日はもうボタンを押されたくない」という防衛本能から光学迷彩システムを起動させているという宇宙規模のバグ。彼らは周囲の景色(新聞紙やテーブルクロス)に完全に擬態し、あなたの目が節穴になるよう視覚ハッキングを仕掛けているのだ。
オチ:華麗なる迷宮入り
「事態は我々が思っているより深刻かもしれないな……。」
私は午後の情報収集(という名目のサボり)のため、捜査課の小さなテレビでニュース番組を観ることにした。
「フッ、今日こそはこの世の真実に辿り着いてみせる。」
私はデスクに深く腰掛け、コーヒーを片手に、もう片方の手でリモコンを探した。
「……ない。」
定位置であるはずのモニターの横に、リモコンの姿はない。
私は舌打ちをし、デスクの上の書類をめくり、引き出しの中を漁り、さらには自分が座っている椅子のクッションの隙間まで徹底的に捜索した。
10分間の激しい家宅捜索の結果、私のデスク周りは紙くずとホコリが舞う無惨な状態となった。
「チッ……。ソファ・イーターの仕業か、それとも光学迷彩か。こんな狭いデスクの上で消えるなど、物理的にあり得ない……!」
私は苛立ちに任せて、ずっと右手に持っていた「黒くて長方形の物体」で、左手のひらをポンポンと叩いた。
「…………ん?」
私は、自分の右手に握られているものをゆっくりと見つめた。
それは紛れもなく、私がこの10分間血眼になって探していたテレビのリモコンであった。私は最初からリモコンを握りしめたまま、「リモコンがない」と大騒ぎし、もう片方の手で部屋中をひっくり返していたのだ。
「フゥ……無念だ。」
無意識の隠蔽か、光学迷彩か。今回もまた、決定的な証拠を掴むことはできなかった。探偵帽を深くかぶり直し、私は自分が散らかした書類の山を無言で片付け始めた。謎がそこにある限り、日常捜査課の戦いは終わらない。
【捜査報告書】
- 捜査結果決定的証拠なし(一番の死角である「自分の右手」に握られていたため)
- 有力な容疑者第一の容疑者(脳のオートパイロット機能の暴走と、致命的な注意力の欠如)
- カピ主任の見解「灯台下暗しと言うが、己の手のひらの中にあるものすら見失うようでは探偵失格だ。……それにしても、なぜ握っていることに気づかなかったのか、人間の脳は謎に満ちている。」
- 捜査状況継続中






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