【日常捜査ファイルNo.061】カレーだけ毎回作り過ぎる事件

【日常捜査ファイルNo.061】カレーだけ毎回作り過ぎる事件

  • 事案名称: 無限増殖型・香辛料煮込み現象、通称「カリー・インフレーション・バグ」
  • 警戒レベル: ★★★★☆(向こう3日間の食事が完全に固定化され、冷蔵庫の大部分がタッパーウェアに占拠される物理的・精神的ダメージ)
  • 捜査難易度: ★★★★★(「ルーは半分だけ使う」と決意していたはずなのに、鍋の中の具材が勝手に細胞分裂を起こすため制御不能)
  • 被害対象: 「明日の分も少し残ればいいな」という、ささやかな時短計画を企てた全人類
  • 目撃情報: コンロの上に鎮座する、フチすれすれまで満たされた巨大な鍋を覗き込み、「おかしい、私は2人前を作るつもりだったのに……」と虚無の表情でしゃもじを握りしめている姿

現場証言:被害者たちの叫び

「玉ねぎ1個、じゃがいも2個、人参1本。まな板の上では常識的な量だったはずなのに、鍋に入れて水を注いだ瞬間、なぜか炊き出しレベルのボリュームに膨れ上がりました。もう3日連続でカレーを食べています。」

(20代・学生)

「味が薄い気がしてルーを足すと、今度はドロドロになりすぎる。仕方なく水を足すと、また味が薄くなる。この『味と水分の無限シーソーゲーム』を繰り返した結果、鍋が溢れそうになりました。カレー作りは一種の罠です。」

(30代・会社員)

「カレーとは単なる料理ではない。鍋の中で独自の生態系を築く、生きた宇宙だ。具材を切り刻み、鍋に火をかけたその瞬間から、お前はもう『量のコントロール』という概念を捨てるしかないのだよ。」

(70代・ベテラン被害者)

導入:事件発生のファイル

「フゥ……。今日もまた厄介な事件(バグ)が舞い込んできたな。」

日常捜査課のデスクで、私は深くため息をつきながら淹れたての深煎りブラジル産コーヒー(※給湯室にあったインスタント)をすすった。

今回の事件は、我々の「計画的な自炊」というささやかな願いを、抗いがたい引力によって崩壊させる極めて悪質な質量保存の法則無視トラップである。

カレー。それは国民食であり、失敗の少ない手料理の代表格だ。「たまには自炊をして、ついでに明日のランチの分も作っておこう」と腕まくりをしてキッチンに立つ。しかし、調理が進むにつれて鍋の中の質量が異常な速度で膨張し、最終的に「大家族の週末」レベルの強大なカレー溜まりが錬成されてしまうという怪現象だ。

なぜ、数個の野菜と肉が、これほどの体積を生み出すのか。この、キッチンのコンロ上で繰り広げられる無限増殖の真相を、私が暴き出してみせよう。

展開:容疑者一覧(カレー増殖の黒幕たち)

「うーむ……これは実に興味深い。これほどまでに堂々と、私の胃袋のキャパシティを無視してくるとは。」

私は張り込み用のお気に入りあんぱんをかじりながら、思考の海へと深く潜っていった。当日常捜査課がリストアップした、3つの恐るべき容疑者をここに記す。

  • 第一の容疑者:具材の「三次元・体積イリュージョン」(現実度:高)スーパーで買う野菜は一つ一つが独立しているため、小さく見える。しかし、それらを乱切りにし、肉を加え、鍋という「円柱形の空間」に無造作に放り込むと、具材と具材の間に絶妙な隙間(デッドスペース)が生まれ、見た目のカサが劇的に増すという物理的な容疑者。あなたの目測が狂っているのではない、空間認識能力の限界なのだ。
  • 第二の容疑者:ルーと水分の「無限シーソー・アルゴリズム」(現実度:中)カレー作りの最終工程で発動する、味覚のバグ。「シャバシャバすぎる(ルーを追加)」「味が濃くてドロドロだ(水を追加)」という調整を繰り返すうちに、気がつけば鍋のフチ限界までかさ増しされてしまう現象だ。これは完璧な味を求める人間の業(ごう)が生み出した、悲しき自己増殖ループである。
  • 第三の容疑者:鍋底の魔神「カリー・ジン」(現実度:低・妄想)「明日も料理を休みたい」というあなたの深層心理を読み取った鍋の精霊が、勝手に具材を細胞分裂させているという宇宙規模の現象だ。彼らは良かれと思って「3日分のカレー」を強制的にプレゼントしてくれているのである。翌々日に「カレーうどん」にアレンジされる運命まで込みの親切心なのだ。

オチ:華麗なる迷宮入り

「事態は我々が思っているより深刻かもしれないな……。」

週末の夕暮れ時。普段のカレー欲はココイチ(CoCo壱番屋)のデリバリーで完璧な一人前を計算高く摂取しているこの私だが、その日は無性に「家庭の味」を自らの手で錬成したくなっていた。

「フッ、名探偵たるもの、たまには自らの手でスパイスの調合(※市販のルー)を行うのも悪くない。量は少なめでいい、明日の朝の分が残る程度で完璧だ。」

私はスーパーで、玉ねぎ1個、じゃがいも2個、人参1本、そして豚肉の細切れを少しだけ購入した。

「ふふん、これなら絶対に作り過ぎることはない。完全なる勝利の方程式だ。」

私は鼻歌交じりで野菜の皮を剥き、手際よく乱切りにしていく。

しかし、ここで最初の誤算が生じた。玉ねぎが思ったよりも大きく、切った瞬間にまな板の上でモサァッと山を築いたのだ。

(……チッ、まあいい。煮込めば縮むだろう。)

私はすべての具材を愛用の両手鍋に放り込み、炒め始めた。

しかし、具材たちは鍋の中で激しく自己主張を始め、この時点ですでに鍋の半分を占拠している。

そこに「箱の裏に書いてある規定量」の水を注ぎ込んだ瞬間、水位は一気に鍋の8分目まで上昇した。

「バ、バカな……!? なぜだ、買った時はあんなにコンパクトな野菜たちだったのに!」

焦る私の耳に、キッチン横から「ニャーン」という声が響いた。

我が家の白黒の愛しき同居人(猫)が、「お前、それ何日かけて食うつもりだ?」とでも言いたげな、呆れた視線を私に向けている。

「ええい、黙っていろ! まだだ、まだルーを入れるまでは確定ではない!」

しかし、沸騰した鍋にルーのひとかけらを割り入れた瞬間、シャバシャバだった液体は重力を持ったかのように粘度を増し、「ボコッ……ボコッ……」とマグマのように膨れ上がり始めた。

味見をすると少し薄い。私は無意識のうちにもうひとかけらルーを足し、濃くなったと感じて少し水を足し……。

気づけば、私の目の前には、フチの限界ギリギリまでなみなみと注がれた「完全なる大家族用カレー」が錬成されていた。

「フゥ……無念だ。」

体積イリュージョンか、カリー・ジンの親切心か。今回もまた、スマートに2食分だけを作り上げるという決定的な証拠(完璧な分量)を掴むことはできなかった。探偵帽を深くかぶり直し、私は向こう3日間の夕食メニューがすべて確定した事実に静かに絶望しながら、とりあえず今日の一皿目を大盛りでよそった。謎がそこにある限り、日常捜査課の戦いは終わらない。

【捜査報告書】

  • 捜査結果決定的証拠なし(味の微調整という名のシーソーゲームに敗北し、見事なまでに増殖を許したため)
  • 有力な容疑者第二の容疑者(ルーと水分の無限調整ループと、人間の完璧主義)
  • カピ主任の見解「鍋の中のカレーは、お前の想像する3倍の速度で膨張する。『少し少ないかな?』と思うくらいの野菜の量で、すでに限界突破していると知れ。カレーを作る前に、まずはタッパーの在庫を確認するのだ。」
  • 捜査状況継続中(現在3日目のカレー。明日はカレーうどんにするか、カレードリアにするか、真剣に捜査会議中)

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。