【日常捜査ファイルNo.069】ゲーム配信やボイスチャットでマイクをオンにした瞬間に限って、強烈なくしゃみや咳が出そうになる事件

【日常捜査ファイルNo.069】ゲーム配信やボイスチャットでマイクをオンにした瞬間に限って、強烈なくしゃみや咳が出そうになる事件

  • 事案名称: 音声入力連動型・生理現象暴走、通称「マイクオン・ミュート・クライシス」
  • 警戒レベル: ★★★★☆(通話相手やリスナーの鼓膜にダイレクトアタックを仕掛けてしまう罪悪感と、不細工な破裂音を公共の電波に乗せる精神的ダメージ)
  • 捜査難易度: ★★★★★(「あっ、出る!」と脳が認識してから発射されるまでのコンマ数秒の間に、ミュートのショートカットキーを押すのは人間の反射神経では物理的に不可能なため)
  • 被害対象: 完璧なオーディオ環境を構築し、「さあ、最高のトークを届けるぞ」と気合を入れてマイクのスイッチを入れたすべてのゲーマーおよび配信者
  • 目撃情報: モニターの前で突然「ヒッ、ヒッ……!」と息を呑み、マウスやキーボードの周辺を狂ったように手探りしながら、最終的にマイクから顔を背けて「ブワックション!!」と虚空に向かって咆哮している姿

現場証言:被害者たちの叫び

「マッチング中の数分間は完全に無風だったんです。でも、ゲームが始まって『よし、行くぞ!』とマイクをオンにした瞬間、喉の奥に強烈なイガイガが襲来しました。私の第一声は『ゴホッ、オエエッ!』という最悪の開幕コールでした。」

(20代・学生)

「くしゃみが出そうになったので、咄嗟にヘッドセットの物理ミュートボタンを押したつもりでした。しかし焦りすぎて音量調整ダイヤルを回してしまい、私の特大のくしゃみが、かつてない超大音量でボイスチャットに響き渡りました。」

(30代・会社員)

「マイクとは、人間の『隙』を測る精密機械だ。お前が無言でいる間は何も起きない。だが、『言葉を発しよう』と無防備に口を開いたその一瞬を、ヤツらは決して逃さないのだよ。」

(70代・ベテラン被害者)

導入:事件発生のファイル

「フゥ……。今日もまた厄介な事件(バグ)が舞い込んできたな。」

日常捜査課のデスクで、私は深くため息をつきながら淹れたての深煎りブラジル産コーヒー(※給湯室にあったインスタント)をすすった。

今回の事件は、我々がデジタル空間で他者とコミュニケーションを取る際、己の肉体が最大の裏切り者となる極めて理不尽な人体トラップである。

Discordなどのボイスチャットや、ゲーム配信のソフトウェア。雑音を入れないように普段はマイクをミュートにしており、いざ自分が話すターンになった時にミュートを解除する。しかし、「マイクをオンにしたまさにその瞬間」、それまで全く気配のなかった強烈な鼻のムズムズや喉の痒みが突如として発生し、意図せぬ爆音(くしゃみや咳)をマイクに叩き込んでしまうという怪現象だ。

なぜ、ミュート中の安全な時間帯には何も起きず、オンにした瞬間に限って暴発するのか。この、デスク周りで繰り広げられる音響事故の真相を、私が暴き出してみせよう。

展開:容疑者一覧(生理現象暴走の黒幕たち)

「うーむ……これは実に興味深い。これほどまでに完璧なタイミングで、私のハードボイルドな声帯をハッキングしてくるとは。」

私は張り込み用のお気に入りあんぱんをかじりながら、思考の海へと深く潜っていった。当日常捜査課がリストアップした、3つの恐るべき容疑者をここに記す。

  • 第一の容疑者:脳の「緊張緩和・リバウンド現象」(現実度:高)マイクがオフの間、人間は無意識のうちに「音を立ててはいけない」という極度の緊張状態(防衛本能)を維持している。しかし、マイクをオンにして「さあ話すぞ」と息を吸い込んだ瞬間、その緊張がフッと解け、抑え込まれていた鼻粘膜や気管支の刺激が一気にリバウンドして襲いかかってくるという脳科学的な容疑者。つまり、あなたの体がリラックスした証拠である。
  • 第二の容疑者:コンデンサーマイクの「集音電磁波・粘膜アタック」(現実度:中)高音質なマイクほど、周囲の音を拾うための強力な磁場を形成している。マイクがアクティブになった瞬間、その見えない電磁波の波紋があなたの鼻腔や喉の奥を直接撫で回し、強制的にくしゃみや咳を誘発しているという説。あれはアレルギーなどではない、マイクからの物理攻撃なのだ。
  • 第三の容疑者:配信の魔物「ノイズ・イーター」(現実度:低・妄想)インターネットの海には、ゲーマーが焦ってパニックになる「ノイズ」を主食とする魔物が潜んでいる。彼らはあなたがマイクをオンにしたコンマ数秒の隙を突き、見えない羽であなたの鼻先をくすぐって逃げていくのだ。リスナーや通話相手の鼓膜が破壊されるのは、すべてこの魔物の仕業である。

オチ:華麗なる迷宮入り

「事態は我々が思っているより深刻かもしれないな……。」

昨晩のことだ。私は、同じく配信やゲームを嗜む古くからの戦友(フレンド)とボイスチャットを繋ぎ、夜更けの作戦会議を行っていた。

議題は、我々が愛してやまない非対称対戦ゲーム(Dead by Daylight)における、「もし自分が新しいキラー(殺人鬼)やサバイバーをデザインするなら、どんなコンセプトにするか」という、極めてクリエイティブかつ白熱する議論であった。

「フッ、名探偵たるもの、キャラクターの背景(バックストーリー)や能力のシナジーには徹底的にこだわる。」

私はフレンドの熱いプレゼンをミュート状態で聞きながら、手元のマグカップから冷たいお茶をすすっていた。

(……なるほど、その特殊能力(パーク)の構成は面白い。だが、私ならそこに『探偵の鋭い直感』を模した探知能力を付与するね。)

私は自らの完璧なアイデアを披露すべく、キーボードに割り当てたミュート解除のショートカットキーに指を伸ばした。

「ターンッ!」

マイクがアクティブになる。よし、ここから私のターンだ。

「そのアイデアは悪くない。だが、私なら──」

息を深く吸い込んだ、まさにその瞬間だった。

鼻の奥深くに、まるでコショウの瓶を直接ぶちまけられたかのような、圧倒的な『ムズムズ』が落雷の如く発生したのだ。

(……なっ!? 今!? なぜ今のタイミングで!?)

私のハードボイルドな推理は完全に吹き飛んだ。

脳内に危険信号が鳴り響く。このままでは、高感度マイクを通して、私の特大のくしゃみがフレンドの鼓膜を破壊してしまう。

「ヒッ……!!」

私は咄嗟に、再びショートカットキーを押してミュートに戻そうとした。

しかし、人間の反射神経は、生理現象の爆発的なスピードには勝てない。私の指がキーに触れるより早く、臨界点に達した肺の中の空気が音速を超えて噴出した。

『ブッッワァァックション!!!!!』

静寂に包まれた深夜のボイスチャットルームに、一切のフィルターを通さない、大質量のエフェクトがかかったかのような私の破裂音が轟いた。

直後、ヘッドフォン越しに、フレンドの「うわあああ!? ビックリした!!」という悲鳴と、マイクのノイズキャンセルが処理しきれずに発生した「ジジッ」という断末魔のような機械音が聞こえてきた。

「…………フゥ、す、すまん。」

私は涙目で鼻をすすりながら、ようやくミュートボタンを押し、モニターの前で一人静かに天を仰いだ。

私が考案した完璧な新キャラクターのコンセプトは、一つの巨大なくしゃみと共に、霧の森の彼方へと消え去ってしまったのである。

「フゥ……無念だ。」

緊張緩和のリバウンドか、ノイズ・イーターの悪戯か。今回もまた、スマートにマイクを操り、クールな作戦会議を遂行するという決定的な証拠を掴むことはできなかった。探偵帽を深くかぶり直し、私は「ミュートのショートカットキーは、キーボードではなく足元のフットペダルにすべきかもしれない」という新たなガジェットの導入を真剣に検討し始めた。謎がそこにある限り、日常捜査課の戦いは終わらない。

【捜査報告書】

  • 捜査結果決定的証拠なし(コンマ数秒の攻防に完全敗北し、フレンドの鼓膜にクリティカルヒットを与えたため)
  • 有力な容疑者第一の容疑者(無防備に息を吸い込んだ瞬間を狙い撃ちにしてくる、己の気まぐれな粘膜)
  • カピ主任の見解「マイクのミュートボタンは、手榴弾の安全ピンと同じだ。抜いた瞬間、お前は爆発(くしゃみ)の危険に身を晒すことになる。咳払いの一つも、戦場では命取りになると思え。」
  • 捜査状況継続中(フレンドに平謝りしつつ、もう一度最初からキャラクターのコンセプトを説明し直し中)

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