【日常捜査ファイルNo.077】新品のタオルだけ全然水を吸わない事件
【日常捜査ファイルNo.077】新品のタオルだけ全然水を吸わない事件
- 事案名称: 初期繊維・絶対撥水現象、通称「ウォーター・リペラント・フラフ」
- 警戒レベル: ★★★★☆(「お風呂上がりにホテルライクな至福のひとときを」という期待が、ただ水滴を体に塗り広げるだけの苦行に変わる精神的ダメージ)
- 捜査難易度: ★★★★☆(売り場で触った時の「フワフワ感」という甘い罠に、人間の触覚は100%騙されてしまうため)
- 被害対象: 古びたゴワゴワのタオルをついに卒業し、「ちょっといい柔軟なタオル」を奮発して買った全人類
- 目撃情報: 脱衣所でフワフワのタオルを体に擦り付けているのに、なぜか体中がびしょ濡れのままで、最終的にタオルを睨みつけながら震えている姿
現場証言:被害者たちの叫び
「高級な今治タオルをいただき、ルンルン気分でシャワーを浴びました。しかし、顔を拭こうとしたら、水滴がタオルの表面を滑って首筋に垂れてきました。あいつはタオルではなく、ただの毛深いレインコートです。」
(20代・学生)
「フワフワのタオルで髪をワシャワシャと拭いたのに、ドライヤーをかけたら水が滴り落ちてきました。タオルは全く濡れておらず、私の髪だけがビショビショでした。あのタオルの吸水力は、サハラ砂漠の石ころ以下です。」
(30代・会社員)
「新品のフワフワ感などというものは、メーカーが仕掛けた幻(イリュージョン)だ。真の吸水力とは、100回洗濯されて表面がヤスリのようにゴワゴワになった『歴戦の布』にのみ宿るのだよ。」
(70代・ベテラン被害者)
導入:事件発生のファイル
「フゥ……。今日もまた厄介な事件(バグ)が舞い込んできたな。」
日常捜査課のデスクで、私は深くため息をつきながら淹れたての深煎りブラジル産コーヒー(※給湯室にあったインスタント)をすすった。
今回の事件は、我々が日々の疲労を洗い流す「バスタイム」の終着点で待ち構えている、極めて悪質な物理トリックである。
日用品の買い出しで、ふと触れた新品のタオルのあまりのフワフワ感に心を奪われ、購入を決意する。その夜、熱いシャワーを浴びて最高の気分でそのタオルを手に取り、体に巻きつける。
しかし、いざ体を拭こうとすると、タオルは水を一滴も吸い込まず、まるで車のフロントガラスに塗った撥水コーティングのように、肌の上の水滴を右から左へとただ移動させるだけという怪現象だ。
なぜ、布の分際で水を拒絶するのか。この、脱衣所で繰り広げられる悲しき摩擦運動の真相を、私が暴き出してみせよう。
展開:容疑者一覧(吸水拒否の黒幕たち)
「うーむ……これは実に興味深い。これほどまでに堂々と、私の『風呂上がりの安らぎ』を水に流してくるとは。」
私は張り込み用のお気に入りあんぱんをかじりながら、思考の海へと深く潜っていった。当日常捜査課がリストアップした、3つの恐るべき容疑者をここに記す。
- 第一の容疑者:製造工程の「過剰防衛・柔軟剤コーティング」(現実度:高)タオルメーカーが、店頭での「手触りの良さ(フワフワ感)」を極限まで高めるため、出荷時に繊維の表面を特殊な柔軟剤や糊でガチガチにコーティングしているという物理的な容疑者。つまり、あなたが売り場で感動したあの柔らかさは、水を弾き返す「見えないバリア」そのものなのだ。
- 第二の容疑者:肌とタオルの「完全反発フィールド」(現実度:中)新品のタオルが帯びている強力な静電気が、あなたの体の水分とマイナスイオン同士で猛烈な反発を起こしているという説。あなたがタオルを押し当てるたびに、ミクロの世界では水分子が「来るな!」と悲鳴を上げて逃げ回っているのである。
- 第三の容疑者:新品の「プライド(入水拒否)」(現実度:低・妄想)工場から出荷されたばかりの新品のタオルが、「初日から他人の垢や汚れた水分を吸うなんてプライドが許さない」と、自我を持ってストライキを起こしているという宇宙規模の現象だ。彼らはまだ、自分が「汚れ役」であることを受け入れられていないのである。
オチ:華麗なる迷宮入り
「事態は我々が思っているより深刻かもしれないな……。」
昨晩のことだ。私はアジトにて、日中から進めていたネットショップの在庫管理システムの見直しをようやく終え、疲労困憊の状態でバスルームへと向かった。
「フッ、名探偵たるもの、デジタルの海でかいた冷や汗は、熱いシャワーでスタイリッシュに洗い流さねばならない。」
今日のお風呂上がりには、とっておきの相棒が待っている。
昼間、日用品の買い出しで立ち寄った店で、あまりの肌触りの良さに即買いしてしまった「プレミアム・マイクロファイバー・バスタオル(極厚)」だ。
(よし、今日の私はこの雲のようにフワフワなタオルに包まれて、極上のリラックスタイムを迎えるのだ。)
私はシャワーを止め、水も滴るハードボイルドな男の姿で、脱衣所に吊るしておいたその純白のタオルを手に取った。
「さあ、私の疲れごと吸い取ってくれ。」
私はタオルに顔を埋め、ワシャワシャと擦り付けた。
……ん?
なんだか、顔の表面がヌルッとする。
私はタオルを離し、鏡を見た。
顔面には、拭き取る前と全く同じ量の水滴が、ただ「均等に塗り広げられた」状態でテカテカと光っていた。
(……チッ、顔は面積が狭いからな。本命は髪の毛だ。)
私はタオルを頭に乗せ、美容師のように激しく揉み込んだ。
しかし、タオルをどかした瞬間、髪から吸い上げられなかった水滴が、まるで滝のように私の首筋を伝って背中へと流れ落ちていったのだ。
「バカな……!? なぜ一切水を吸わない! お前はスポンジの親戚ではないのか!」
私は焦り、体を拭こうと腕や足にタオルを滑らせた。
しかし、それはまるで「撥水加工された新品の傘」で体を撫でているような感覚だった。水滴はタオルの表面をコロコロと転がり落ち、私の足元の珪藻土マットだけが、無慈悲に全ての水分を吸い込んでいく。
「ええい、忌々しい! これではただの『デカくて分厚い布の塊』じゃないか!」
私が脱衣所で、濡れた全裸のままフワフワの布と格闘していると、洗面所のドアの隙間から、我が家の白黒の愛しき同居人が「お前、さっきから何で水遊びの続きしてるの?」とでも言いたげな、呆れ返った視線を送っていた。
「……ッ!!」
私は寒さでガタガタと震えながら、結局、プレミアムバスタオルを床に投げ捨て、棚の奥にしまってあった「洗濯しすぎて生地がペラペラになった、いつものゴワゴワのタオル(温泉宿でもらえるヤツ)」を引っ張り出した。
そのペラペラのタオルは、私の体の水分を一瞬にして、そして完璧に吸い尽くしてくれた。
「フゥ……無念だ。」
過剰防衛のコーティングか、新品のプライドか。今回もまた、スマートに新品のタオルを下ろし、極上のバスタイムを完結させるという決定的な証拠を掴むことはできなかった。探偵帽を深くかぶり直し、私は「新品のタオルは、使う前に必ず3回は水通し(洗濯)をしなければならない」という親の小言のような真理を噛み締めながら、水を弾く憎きフワフワの布を無言で洗濯機に放り込んだ。謎がそこにある限り、日常捜査課の戦いは終わらない。
【捜査報告書】
- 捜査結果決定的証拠なし(手触りの良さに目が眩み、事前の「水通し」という儀式を怠ったため、全裸で凍えるハメになった)
- 有力な容疑者第一の容疑者(消費者の「触感」を騙すために施された、完璧すぎる柔軟剤コーティング)
- カピ主任の見解「タオルの『フワフワ感』と『吸水力』は、決して両立しない裏腹の存在だ。店頭で甘い顔(手触り)を見せるヤツほど、いざという時には役に立たない。真に信頼できるのは、何度も柔軟剤を無視され、ヤスリのようになった歴戦の布だけだ。」
- 捜査状況継続中(洗濯機で2回洗った後も、まだ微妙に水を弾くバスタオルの耐久力に恐怖しながら捜査中)






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