【日常捜査ファイルNo.110】気合いを入れてゲームを起動した瞬間に限って、数十GBの大型アップデートが立ちはだかる事件
【日常捜査ファイルNo.110】気合いを入れてゲームを起動した瞬間に限って、数十GBの大型アップデートが立ちはだかる事件
- 事案名称: 進行阻止・大容量通信現象、通称「ギガバイト・ウォール(絶望のロード画面)」
- 警戒レベル: ★★★★☆(高ぶりきったモチベーションの行き場が完全に失われ、開けたばかりのエナジードリンクがただの甘い汁へと変わっていく精神的ダメージ)
- 捜査難易度: ★★★★★(相手は物理的な存在ではなく、光回線の向こう側にいるサーバー神であるため、我々には祈ることしかできない絶対的無力感)
- 被害対象: すべてのタスクを終わらせ、完璧な布陣でデジタル世界へダイブしようとした、すべての誇り高きゲーマーたち
- 目撃情報: モニターに表示された「残り時間:99+時間」という無慈悲なプログレスバーを前に、ヘッドセットを虚しく首にかけたまま、放心状態で虚空を見つめている姿
現場証言:被害者たちの叫び
「金曜日の夜、ピザを頼んでお酒も用意して、さあ遊ぶぞ!と起動したら50GBのアップデート。結局、ダウンロード画面を見つめながらピザを食べて酒を飲み、アップデートが終わる頃には眠りについていました。」
(20代・会社員)
「休日の朝、子供が起きる前の貴重な1時間で遊ぼうとしたらパッチのダウンロードが始まりました。残り時間45分と表示された瞬間、私はそっとPCの電源を落とし、二度寝しました。」
(30代・親ゲーマー)
「かつてのゲームは、カセットをフーフーして差し込めばすぐに冒険が始まったのだよ。今や我々は、見えないデータの波が通り過ぎるのを待つ『待合室の住人』に成り下がってしまったのだ。」
(70代・ベテラン被害者)
導入:事件発生のファイル
「フゥ……。人間という生き物は、デジタルの海へ漕ぎ出そうとしたその瞬間に、最も高く分厚い防波堤に顔面をぶつける運命にあるようだな。」
日常捜査課のデスクで、私は深くため息をつきながら淹れたての深煎りブラジル産コーヒー(※給湯室にあったインスタント)をすすった。
今回の事件は、我々のプライベート空間における最大のエンターテインメントを根底から破壊する、極めて無慈悲なサイバー・トラップである。
仕事や家事を片付け、風呂にも入り、あなたは完璧なコンディションを整える。手元にはお気に入りのドリンク。ヘッドセットを装着し、マウスを握る手には力がこもる。
「さあ、戦いの時間だ」と、デスクトップのアイコンをダブルクリックしたその瞬間。
『アップデートが必要です(容量:48.5GB)』
画面に立ち上がる、非情なるポップアップ。
ランチャーの自動更新設定はオンにしてあったはずだ。PCだってさっきから起動していた。それなのに、彼らはあなたが「さあ、やるぞ」とクリックしたその瞬間に限って、重い腰を上げて巨大なデータの塊をダウンロードし始めるのである。
なぜ彼らは、我々のやる気がピークに達した瞬間をピンポイントで狙撃してくるのか。この、モニターの向こう側で笑うアップデートの悪魔の真相を、私が暴き出してみせよう。
展開:容疑者一覧(絶望のロード画面の黒幕たち)
「うーむ……これは実に興味深い。これほどまでに完璧なタイミングで、私の闘争心をへし折ってくるとは。」
私は張り込み用のお気に入りあんぱんをかじりながら、思考の海へと深く潜っていった。当日常捜査課がリストアップした、3つの恐るべき容疑者をここに記す。
- 第一の容疑者:ランチャーソフトの「自動更新サボタージュ」(現実度:高)「バックグラウンドで自動的に更新をダウンロードする」という設定になっているにもかかわらず、ユーザーが自らアイコンをクリックするまで頑なに仕事を始めない、怠慢極まりないバックグラウンド・プロセスの反逆。
- 第二の容疑者:時差による「パッチ・コリジョン(深夜の衝突)」(現実度:中)海外のゲーム開発スタジオが「向こうの平日の昼間」にパッチを配信した結果、日本の「夜のゴールデンタイム(最も遊びたい時間帯)」に直撃してしまうという、地球の自転が生み出したグローバルな悲劇。
- 第三の容疑者:通信の魔物「モチベーション・イーター」(現実度:低・妄想)光ファイバーの中に潜む魔物が、人間の「ワクワクしている感情」を食料としており、その感情が最高潮に達した瞬間にわざと巨大なデータ通信を発生させ、絶望に変わっていく様を味わっているというオカルト現象だ。
オチ:華麗なる迷宮入り
「事態の真相は、私が裏社会のネットワークに『妖怪ももかん』のコードネームで潜入し、大勢の協力者(リスナー)に向けて配信を開始しようとしたまさにその瞬間に、牙を剥いて現れるようだな……。」
ある週末の夜。私はアジトを完璧な配信スタジオへとセッティングしていた。
今夜のミッションは、「Dead by Daylight」の過酷な儀式において、迫り来る追跡者から華麗に逃げ延びる姿を全世界に中継することだ。
私は己の燃料である「ミラクルエナジーNEO」のプルタブを『プシュッ』と小気味よく開け、SNSに「間もなく潜入開始。今夜は全員で生還するぜ」とハードボイルドな予告メッセージを放った。
「フッ……準備は完璧だ。最高のショーを見せてやる。」
配信ソフトの録画ボタンを押し、私は気合いと共にゲームのアイコンをダブルクリックした。
暗転する画面。鳴り響くはずのおどろおどろしいBGM。
しかし、モニターに表示されたのは、Steamの無機質なダウンロードウィンドウだった。
『Dead by Daylight のアップデート中:39.8GB / 残り時間:約1時間15分』
(な、なんだと……!? 新キラーの実装パッチだと……!? なぜ数時間前からPCをつけていたのに、今になってダウンロードを始めるんだ!)
私は凍りついた。配信はすでにスタートしており、画面の向こうでは大勢の協力者たちが「こんばんは!」「待機!」と熱いエールを送ってくれている。
しかし、私が彼らに提供できる映像は、ジリジリとしか進まない青いプログレスバーだけだ。
「えー……諸君。現在、何者かの妨害工作により、儀式の会場へのゲートが封鎖されている……。突破まで、あと、えーと……1時間ほどかかる見込みだ。」
ハードボイルドな探偵らしからぬ、冷や汗まみれの言い訳。
結局私は、その後の1時間、ミラクルエナジーNEOをチビチビとすすりながら、「最近のアップデートは容量がデカいですね」というような中身のない雑談で場を繋ぐという、究極の耐久配信を行う羽目になった。
デスクの端では、我が家の白黒の愛しき同居人(猫)が、「お前、今夜は『ロード画面を見守るプロ』としてデビューしたのかニャ?」とでも言いたげな、呆れ果てた視線をプログレスバーと私に交互に送っていた。
「フゥ……完全なる敗北だ。」
サボタージュの罠か、時差の残酷さか。今回もまた、スマートにゲームの世界へダイブし、有能なエンターテイナーであることを証明する決定的な証拠を掴むことはできなかった。探偵帽を深くかぶり直し、私は「真のプロフェッショナルとは、配信の1時間前に手動で『アップデートの確認』を押す者のことである」という血の滲むような真理を噛み締めながら、ようやく0%から1%へと進んだ青いゲージを虚ろな目で見つめ続けた。謎がそこにある限り、日常捜査課の戦いは終わらない。
【捜査報告書】
- 捜査結果決定的証拠なし(大型パッチの実装日を完全に失念しており、結果としてリスナーに1時間以上ロード画面を見せ続けるという大失態を演じたため)
- 有力な容疑者第一の容疑者(ランチャーの自動更新を過信し、「きっと裏でやっておいてくれただろう」と勝手に思い込んでいた己の甘すぎる危機管理能力)
- カピ主任の見解「探偵たるもの、現場(サーバー)の状況は常に最新に保っておくのが鉄則だ。飲み物を開け、SNSで大見得を切った後に足止めを食らうなど、滑稽すぎて涙も出ないぞ。次からは、エナジードリンクを開ける前にパッチノートを読め。」
- 捜査状況継続中(ようやくゲームが起動した頃には、雑談で喉を枯らし、エナジードリンクのカフェインも切れかけて完全に疲労困憊となっていたため、次回に向けて事前確認の徹底を固く誓約中)






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