【日常捜査ファイルNo.113】採血の時だけ血管が本気で隠れる事件
【日常捜査ファイルNo.113】採血の時だけ血管が本気で隠れる事件
- 事案名称: 血管隠蔽・ステルス静脈現象、通称「ハイド・アンド・ブラッド(血の逃避行)」
- 警戒レベル: ★★★★★(担当者が若手からベテランへとチェンジする瞬間の、あの何とも言えない気まずさと、針を刺された状態で「中で探られる」時の絶望的な痛覚ダメージ)
- 捜査難易度: ★★★★☆(待合室では青々と浮き出ていたはずの証拠(血管)が、いざ本番となると皮膚の奥底へ完全に潜伏してしまうため)
- 被害対象: 己の腕のポテンシャルを信じて疑わず、余裕の表情で腕をまくったすべての健康診断受診者たち
- 目撃情報: ゴムバンドでキツく縛られ、腕を何度もピシャピシャと叩かれた挙句、「うーん……ちょっと逃げちゃいますね」と言われ、無言で奥から「絶対的オーラを纏ったベテラン看護師」が召喚される緊迫の光景
現場証言:被害者たちの叫び
「普段、お風呂上がりとかは気持ち悪いぐらい血管がボコボコ出てるんですよ。でも、採血の椅子に座った瞬間、全部どこかに消えるんです。私の腕はスパイか何かですか?」
(20代・プログラマー)
「両腕を何度も確認され、結局『手の甲でもいいですか?』と聞かれた時の絶望感。手の甲は痛いんです。ただただ、痛いんです。」
(30代・営業職)
「血管とは、臆病な情報屋と同じなのだよ。こちらが強引に引きずり出そうとすればするほど、彼らは肉の奥深くへと身を潜め、口を閉ざしてしまうのだ。」
(70代・ベテラン被害者)
導入:事件発生のファイル
「フゥ……。人間の身体というものは、持ち主の意思とは無関係に、独自の防衛本能を働かせる厄介なシロモノのようだな。」
日常捜査課のデスクで、私は深くため息をつきながら淹れたての深煎りブラジル産コーヒー(※給湯室にあったインスタント)をすすった。
今回の事件は、年に一度、あるいは病院にかかる際に我々を襲う、極めて理不尽な人体ミステリーである。
採血室。そこは嘘と真実が交差するハードボイルドな取調室だ。あなたは椅子に座り、アルコール綿の冷たい感触にわずかな緊張を覚えながらも、誇り高く腕を差し出す。
しかし、ゴムバンドで腕を縛られた直後、担当者の動きがピタリと止まる。
「あれ……? ちょっと見えにくいですね。親指を中にして、ギュッと握ってください。」
言われた通りに拳を握りしめ、腕に力を込める。ペチペチと腕を叩かれる。しかし、血管は一向に姿を現さない。さっきまで待合室でスマホをいじっていた時は、あんなにハッキリと青い道筋が見えていたというのに。
なぜ彼らは、最も見つかってほしい決定的な瞬間に限って、その姿を消してしまうのか。この、医療現場で頻発するステルス現象の真相を、私が暴き出してみせよう。
展開:容疑者一覧(血の逃避行の黒幕たち)
「うーむ……これは実に興味深い。これほどまでに完璧なタイミングで、私の立派な静脈が身を隠すとは。」
私は張り込み用のお気に入りあんぱんをかじりながら、思考の海へと深く潜っていった。当日常捜査課がリストアップした、3つの恐るべき容疑者をここに記す。
- 第一の容疑者:肉体の「闘争・逃走本能バグ」(現実度:高)「これから針という鋭利な凶器が刺さる」という危機的状況を脳が察知し、出血を最小限に抑えるために、本能的に体表の血管を収縮させて深部へと隠してしまうという、生存本能の暴走。
- 第二の容疑者:白衣のプレッシャー「ステージ・フライト(舞台恐怖症)」(現実度:中)普段は誰にも見られていないからリラックスして浮き出ている血管が、白衣を着たプロフェッショナルから至近距離で見つめられ、さらに腕をペチペチと叩かれることで極度の緊張状態(あがり症)に陥り、縮み上がってしまうという心理的エラー。
- 第三の容疑者:血管の反逆「カメレオン・ベイン」(現実度:低・妄想)長年酷使されてきた血管が自我を持ち、「そう簡単に血を抜かれてたまるか」と、周囲の筋肉や脂肪組織の色と完全に同化して身を隠す高度なカメレオン能力を身につけたというオカルト現象だ。
オチ:華麗なる迷宮入り
「事態の真相は、私が万全のコンディションで派遣先の定期健康診断に臨んだまさにその瞬間に、牙を剥いて現れるようだな……。」
ある冬の朝。私は、派遣会社から指示された定期的な健康診断の会場へ足を運んでいた。
連日の激務と夜通しの捜査(という名のゲーム)で疲労気味だった私は、健康診断の場で倒れるというハードボイルドらしからぬ失態を避けるため、気付け薬として愛飲している「ミラクルエナジーNEO」を会場入りする直前に一本煽っていた。強烈なカフェインで無理やり交感神経を叩き起こしての出陣だ。
「フッ……これで意識はクリアだ。血の巡りも最高潮のはずさ。」
視力検査、聴力検査と順調にクリアし、いざ採血のブースへ。私は余裕の笑みを浮かべ、コートを脱いで腕を差し出した。
若手の看護師がゴムバンドをキツく巻き、私の腕をペチペチと叩く。
「…………あれ? 血管、細いですね。ちょっと見えにくいかも……。」
(ば、バカな。普段からキーボードを叩きまくっている私の前腕は、それなりに血管が浮き出ているはずだぞ。)
「すみません、もう片方の腕も見せてもらっていいですか?」
右腕もダメ、左腕もダメ。若手看護師の額にうっすらと汗がにじむのを見て、私の中の余裕は完全に消え去り、申し訳なさと焦りが入り混じった冷や汗が吹き出し始めた。
最終的に「少々お待ちください」と奥へ下がり、登場したのは歴戦の猛者といった風貌のベテラン看護師だった。
「はい、ちょっと見せてねー。あー、なるほど。今日、何かカフェイン強いもの飲みました? 血管がギュッと縮こまっちゃってるわね。それか緊張してる?」
(エ、エナジードリンク……!!)
良かれと思って注入したミラクルエナジーNEOのカフェインが、見事に血管を収縮させていたのだ。探偵としての私の浅はかなドーピングが、すべて裏目に出た瞬間だった。
結局、ベテランの神業により「手首の横」という普段絶対に刺されない急所のような場所に針を刺され、私は静かなる激痛に顔を歪めながら証拠品(血液)を提出する羽目になった。
アジトへ帰還し、ソファーに倒れ込んだ私を待っていたのは、「わざわざ採血の前に血管を収縮させる薬(エナドリ)を飲むなんて、人間は自らハードモードを選ぶのが好きなんだニャ」とでも言いたげな、我が家の白黒の愛しき同居人(猫)の、果てしなく冷ややかな視線だった。
「フゥ……完全なる敗北だ。」
防衛本能か、カフェインの罠か。今回もまた、スマートに腕を差し出し、一発で採血を終わらせるタフな探偵であることを証明することはできなかった。探偵帽を深くかぶり直し、私は絆創膏が貼られた手首をさすりながら「採血の朝は、黙って白湯を飲め」という血の滲むような真理を噛み締めた。謎がそこにある限り、日常捜査課の戦いは終わらない。
【捜査報告書】
- 捜査結果決定的証拠なし(エナジードリンクのカフェイン作用により自ら血管を隠蔽するという、探偵としてあるまじき自作自演の妨害工作を行っていたことが発覚したため)
- 有力な容疑者第一の容疑者(本能のバグに加え、化学物質(カフェイン)の力を借りて防御力を物理的に底上げしてしまった己の浅はかな判断ミス)
- カピ主任の見解「健康診断の直前にエナジードリンクをがぶ飲みする奴があるか、このバカ探偵! 血管が隠れる以前に、血液検査の数値(血糖値とか)自体が異常値叩き出しておかしくなるだろうが! 次からは、前日の夜から水以外一切口にするな!」
- 捜査状況継続中(ベテラン看護師の神業に深く感謝しつつ、次回の健康診断では開始24時間前からカフェインを断つことを固く誓約中)






この記事へのコメントはありません。