【日常捜査ファイルNo.148】忘れないように置いた場所ほど思い出せない事件

【日常捜査ファイルNo.148】忘れないように置いた場所ほど思い出せない事件

  • 事案名称: 絶対安全領域・記憶喪失現象、通称「ブラックホール・セーフティ(完璧すぎる隠し場所)」
  • 警戒レベル: ★★★★★(「絶対に忘れない」と自信満々で置いた自分の過去のドヤ顔が脳裏にチラつき、己の海馬に対する怒りと絶望で精神が崩壊する致死量のダメージ)
  • 捜査難易度: ★★★★★(「普段絶対に置かないような特別な場所」という条件のせいで、日常の行動パターンからの推測(プロファイリング)が一切通用しない、完全なる迷宮)
  • 被害対象: 大切な書類や小さな部品を失くすまいと、自らの記憶力を過信して「イレギュラーな隠し場所」をクリエイトしてしまったすべての哀しき現代人たち
  • 目撃情報: 部屋中の引き出しや棚をひっくり返し、「違う、いつもの場所じゃないんだ……『あえて』の場所なんだ……!」と虚空に向かって呟きながら、狂ったように同じ箱の中を3回確認している姿

現場証言:被害者たちの叫び

「限定モノのライブチケット。『当日まで絶対に失くさないように』と、本棚のある本の中に挟みました。当日、自分がどの本を選んだのか全く思い出せず、数百冊の本を床にぶちまけて泣きながら探しました。」

(会社員)

「予備の合い鍵を『泥棒でも絶対に見つけられない場所』に隠しました。数年後、鍵を失くした私が探しても絶対に見つかりませんでした。私の防犯対策は、私自身に対して最も有効に働きました。」

(営業職)

「『ここなら絶対忘れない』という言葉は、脳に『この情報は特別だから通常の記憶フォルダから切り離せ』と命令する呪いの呪文なのだよ。その瞬間、アイテムは四次元の彼方へと転送されるのだ。」

(ベテラン被害者)

導入:事件発生のファイル

「フゥ……。人間という生き物は、どれほど数々の難事件を解決してきた頭脳を持っていようとも、数日前の『己のひらめき』の前では、ただの記憶喪失の迷子に成り下がるようだな。」

日常捜査課のデスクで、私は深くため息をつきながら淹れたての深煎りブラジル産コーヒー(※給湯室にあったインスタント)をすすった。

今回の事件は、我々が大切なアイテムを保管しようとした際、自らの脳内で突如として発生する極めて悪質な記憶の暗号化ミステリーである。

あなたは、失くしてはならない重要な物を手にする。普段なら、雑多な引き出しや小物入れに放り込むところだ。

しかし、そのアイテムの重要性が、あなたに余計な気を起こさせる。

「フッ……いつもの場所では他のガジェットに紛れてしまう。そうだ、あそこの隙間(あるいは箱の中)に隠しておこう。この見事な発想、俺なら絶対に忘れないぜ。」

そして数週間後。いざそのアイテムが必要になった時、あなたの脳内から「あの見事な発想」のデータファイルは跡形もなくデリートされているのだ。

いつもの場所を探しても当然ない。なぜなら、あなたが「あえて」そこを避けたからだ。

なぜ我々は、最も忘れてはならないと誓った特別な記憶ほど、真っ先に脳のゴミ箱へ直行させてしまうのか。この「強制セキュリティロック・バグ」の真相を、私が暴き出してみせよう。

展開:容疑者一覧(完璧すぎる隠し場所の黒幕たち)

「うーむ……これは実に興味深い。これほどまでに完璧なタイミングで、俺のプロフェッショナルとしての記憶力を、ただの『鳥頭』へと引きずり下ろしてくるとは。」

私は張り込み用のお気に入りあんぱんをかじりながら、思考の海へと深く潜っていった。当日常捜査課がリストアップした、3つの恐るべき容疑者をここに記す。

  • 第一の容疑者:脳の「孤立化プロトコル(日常からの切り離し)」(現実度:高)人間の記憶は「いつもの行動パターン」と紐づくことで引き出されるが、「あえて普段置かない場所」に置いたことで記憶の導線が完全に断たれ、脳という広大な海の中で孤島と化してしまうシステムエラー。
  • 第二の容疑者:過去の自分の「過剰なドヤ顔(ナルシシズムの罠)」(現実度:中)「こんな隠し場所を思いつくなんて俺は天才だ」という自己陶酔の感情だけが強く記憶に残り、肝心の「場所」という座標データを保存し忘れるという、極めて恥ずかしい心理的バグ。
  • 第三の容疑者:部屋の魔物「セーフティ・イーター(安全喰い)」(現実度:低・妄想)部屋の隅に潜む魔物が、「ここなら絶対忘れないぞ」という人間のフラグ発言をトリガーにして発現し、そのアイテムを異次元空間へと一時的に没収するオカルト現象だ。

オチ:華麗なる迷宮入り

「事態の真相は、俺がデスク周りの大掛かりな掃除を決行したある日、無慈悲に牙を剥いて現れるようだな……。」

その日、私はアジトのデスク周りを整理していた。

拭き掃除をするため、愛用しているロジクールG304マウスなどの周辺機器を一旦デスクから退避させることにした。問題は、G304のあの「極小のUSBレシーバー」だ。ワイヤレスの命綱とも言えるこのパーツは、少しでも目を離せばブラックホールに吸い込まれるような小ささである。

(フッ……こんな小さなパーツ、適当な場所に置いたら絶対に見失う。……そうだ、あそこだ。あそこに入れておけば、掃除が終わった後も絶対に忘れないし、失くすはずがない。)

私は自らの冴え渡るひらめきに酔いしれながら、その小さなパーツを「ある場所」へ慎重に隠した。

そして2時間後。

デスクは見事に輝きを取り戻した。私は満足げに頷き、パソコンを起動させるために周辺機器をセットし直した。

「さて、あとはG304のUSBレシーバーを挿すだけだ。……で、俺はあれをどこに置いた?」

私の脳内は、見事なまでの白紙だった。

「絶対に忘れない場所」に置いたという自信に満ちた感情だけが、虚しくエコーしている。

(な、なんだと……!? どこだ!? ペン立ての中か? 違う! 本の隙間か? 違う! 俺はもっと『おおっ、そこがあったか』と唸るようなクレバーな場所に隠したはずなんだ!)

私は、たった2時間前に綺麗に片付けたばかりのデスクの引き出しをすべて引き抜き、本を倒し、書類をばら撒いた。部屋は掃除をする前よりも凄惨な状態へと変貌した。

30分間の発狂とも言える大捜索の末、私はついにそれを見つけ出した。

それは、デスクの端に置いてあった「常備薬の空き箱」の中だった。

……全くクレバーではない。むしろ、なぜそんな捨てかけのゴミ箱同然の場所に「絶対に忘れない」と自信を持てたのか、過去の自分の思考回路が恐怖でしかなかった。

荒れ果てた部屋の真ん中で呆然と立ち尽くす私を待っていたのは、「『ここなら絶対忘れない』って言いながら薬の箱にゴミみたいに突っ込んでるの、しっかり見てたニャ。お前の脳細胞は一度初期化してもらった方がいいぞ」とでも言いたげな、我が家の白黒の愛しき同居人(猫)の果てしなく冷ややかな視線だった。

「フゥ……完全なる敗北だ。」

孤立化プロトコルの罠か、魔物のフラグ回収か。今回もまた、己の記憶をクールに支配する有能な探偵であることを証明することはできなかった。探偵帽を深くかぶり直し、私は「『絶対忘れない場所』に物を置く時は、その場所をスマホのカメラで撮影し、さらにカレンダーアプリに『薬の箱の中』と登録するまでの執念を持たねばならない」という血の滲むような真理を噛み締めた。謎がそこにある限り、日常捜査課の戦いは終わらない。

【捜査報告書】

  • 捜査結果決定的証拠なし(己の思いつきのレベルの低さと、それを過信したポンコツな海馬の連携ミスが招いた、完全なる自業自得であるため)
  • 有力な容疑者第一の容疑者(「あえて」のイレギュラーな行動をとったくせに、その記録をわずか2時間で脳のキャッシュから消し去った俺自身のオートデリート機能)
  • カピ主任の見解「探偵たるもの、自分の記憶力にハードボイルドな幻想を抱くな。大切なものは『いつもの場所』に黙って置け。奇をてらった隠し場所なんて、ただの未来の自分への嫌がらせだぞ。さあ、散らかした部屋をもう一回掃除するんだニャ。」

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