【日常捜査ファイルNo.151】エアコンのリモコンだけ毎回探す事件

【日常捜査ファイルNo.151】エアコンのリモコンだけ毎回探す事件

  • 事案名称: 局所的空調制御端末・神隠し現象、通称「ファントム・コントローラー(見えない支配者)」
  • 警戒レベル: ★★★★★(一刻も早く冷気(あるいは暖気)を浴びたいという生存本能が焦燥感を煽り、探せば探すほど無駄に汗をかいて体力を消耗する致死量のジレンマ)
  • 捜査難易度: ★★★★☆(テレビのリモコンは常に定位置にあるのに、なぜかエアコンのリモコンだけが「足が生えている」としか思えない不可解な軌跡を描いて移動するため、完全なる密室トリックと化す)
  • 被害対象: 灼熱地獄(または極寒の氷点下)からアジトへ帰還し、文明の利器による救済を求めたすべての哀れな現代人たち
  • 目撃情報: ソファーのクッションをすべて床に放り投げ、雑誌の山を崩し、最終的に「なんでこんなところに!?」と、さっき自分が3回は確認したはずのテーブルのど真ん中を指差して発狂している姿

現場証言:被害者たちの叫び

「壁に専用のリモコンホルダーを取り付けたんです。でも、そのホルダーには過去一度もリモコンが収まったことがありません。あれはただの壁の飾りです。」

(会社員)

「夏の暑い日、部屋中を探し回ってどうしても見つからず、とりあえず冷たいお茶でも飲もうと冷蔵庫を開けたら、マヨネーズの横に冷え切ったリモコンが鎮座していました。自分の無意識が恐ろしいです。」

(営業職)

「エアコンのリモコンとは、カメレオンなのだよ。ヤツらは白いテーブルクロスや、脱ぎ捨てられた白いシャツの上に身を置き、自らの白いボディを完全に風景と同化させる光学迷彩の達人なのだ。」

(ベテラン被害者)

導入:事件発生のファイル

「フゥ……。人間という生き物は、どれほど高度な知能を持っていようとも、長さ15センチほどのプラスチックの板一つを管理できず、室温にひれ伏す哀れな存在のようだな。」

日常捜査課のデスクで、私は深くため息をつきながら、プルタブを弾いたミラクルエナジーNEOを喉に流し込んだ。

今回の事件は、我々が過酷な外の世界からアジトへと帰還し、最も「癒やし」を求めているまさにその瞬間に突如として発生する、極めて残酷な密室ミステリーである。

あなたは、日本の過酷な気候を戦い抜き、泥のように疲れた体で帰宅する。

「フッ……今日も無事に生き延びたな。さあ、まずは室温を快適な24度に設定するとしよう。」

あなたはクーラーを起動すべく、いつものテーブル、あるいはソファーの横へと手を伸ばす。

しかし、そこにあるのは黒光りするテレビのリモコンと、ブルーレイレコーダーのリモコンだけだ。肝心の、あの「白いボディに液晶画面がついた相棒」だけが、まるで煙のように姿を消している。

(……おかしい。出かける前は確かにここで電源を切ったはずだ。)

あなたは部屋中を捜索し始める。しかし、探せば探すほど体温は上昇し、汗が吹き出し、苛立ちは最高潮に達する。

なぜ我々は、他のリモコンは決して失くさないのに、室温の命綱である「エアコンのリモコン」だけをピンポイントで異次元空間へと転送してしまうのか。この「空調制御端末・強制隠蔽バグ」の真相を、私が暴き出してみせよう。

展開:容疑者一覧(見えない支配者の黒幕たち)

「うーむ……これは実に興味深い。これほどまでに完璧なタイミングで、俺のハードボイルドな休息を、ただの『汗だくの宝探しゲーム』へと引きずり下ろしてくるとは。」

私は張り込み用のお気に入りあんぱんをかじりながら、思考の海へと深く潜っていった。当日常捜査課がリストアップした、3つの恐るべき容疑者をここに記す。

  • 第一の容疑者:脳の「テレビリモコン絶対主義(視覚のバイアス)」(現実度:高)「リモコン=黒くて細長いもの」という固定観念が脳に刷り込まれているため、テーブルの上を何度見ても、白くてぽってりとしたエアコンのリモコンが視覚情報としてスルーされてしまうシステムエラー。
  • 第二の容疑者:無意識の「ながら置きトラップ(記憶の欠落)」(現実度:中)エアコンを操作するのは「帰宅して着替える時」や「寝る直前」など、別の動作とセットになっていることが多く、無意識のうちにベッドの上や洗面所など、およそリモコンが存在するはずのない場所に置き去りにしてしまう物理的エラー。
  • 第三の容疑者:部屋の魔物「サーモスタット・シーフ(温度泥棒)」(現実度:低・妄想)部屋の隅に潜む魔物が、汗だくで帰ってきた人間を見て「もっと汗をかけ」とほくそ笑みながら、リモコンを一時的に四次元ポケットへと没収するオカルト現象だ。

オチ:華麗なる迷宮入り

「事態の真相は、俺がうだるような暑さに包まれた張り込みを終え、サウナと化したアジトへ帰還したある日の夕方、無慈悲に牙を剥いて現れるようだな……。」

その日、外気は狂ったような熱気を帯びていた。

私はジャケットを脱ぎ捨て、首にまとわりつくネクタイを乱暴に引き抜きながら自室のドアを開けた。むわっとした熱気が顔を叩く。

(フッ……まるで灼熱の砂漠だ。だが、俺には文明の利器がある。一瞬でこの部屋をオアシスに変えてやるぜ。)

私は一直線にリビングのテーブルへ向かった。

しかし、そこにあるのは愛用のGoogle Pixel 10 Pro XLと、テレビのリモコンだけだった。

(……ない。エアコンのリモコンがないだと?)

私は舌打ちをし、ソファーのクッションを引っぺがした。ない。

雑誌の束を退けた。ない。

「くそっ、出かける前は確かにピッと消したはずだ! なぜ消える!?」

私は汗だくになりながら、ベッドの下、本棚の隙間、果てはキッチンにまで捜索範囲を広げた。アジトの中を数往復するうちに、私のシャツは完全に汗で張り付き、もはや外にいる時よりも体力を消耗していた。

「ハァ、ハァ……どこだ……俺のオアシスへの鍵は……」

絶望に打ちひしがれ、私がリビングのラグの上に四つん這いになったその時だった。

視線の先、窓際のキャットタワーの一番下の段。

そこには、我が家の白黒の愛しき同居人(猫)が、涼しい顔をして丸まっていた。

そして、その顎の下。

見覚えのある、白くてぽってりとしたプラスチックの板が、完璧な「顎置き」として見事に機能していたのである。

(な、なんだと……!? 貴様、俺の命綱を枕にしていたのか!)

私は震える手でリモコンを奪還しようと手を伸ばした。しかし、白黒の同居人は「ピクッ」と耳を動かし、薄目を開けて私をギロリと睨みつけた。

「お前が昨日の夜、俺の寝床の近くにポイッと置きっぱなしにしたのが悪いんだニャ。この絶妙なカーブ、顎にジャストフィットして最高だぞ。今これを引き抜いたら……どうなるか分かってるだろうな?」

とでも言いたげな、圧倒的なプレッシャー。

「フゥ……完全なる敗北だ。」

ながら置きのトラップか、毛玉の略奪か。今回もまた、自らのアジトの室温をクールに支配する有能な探偵であることを証明することはできなかった。探偵帽を深くかぶり直し、私は「エアコンのリモコンを探す時は、まず己の無意識の行動を疑い、次に同居の獣の寝床を確認せよ」という血の滲むような真理を噛み締めた。結局その日、私は猫が目を覚ますまでの30分間、扇風機の生温かい風だけで耐え凌ぐ羽目になった。謎と熱帯夜がそこにある限り、日常捜査課の戦いは終わらない。

【捜査報告書】

  • 捜査結果決定的証拠なし(前日の夜、寝ぼけ眼で適当にリモコンを放り投げた己のずさんな管理体制が招いた、完全なる自業自得であるため)
  • 有力な容疑者第一の容疑者(人間が血眼になって探しているアイテムを、最も快適なクッションとして再利用する、我が家の白黒のファントム・シーフ)
  • カピ主任の見解「探偵たるもの、自分の道具の管理くらい徹底しろ。ホルダーがあるなら使え。俺の顎の下から無理やり奪い取ろうとしなかったことだけは評価してやるニャ。さあ、汗臭いから早くシャワー浴びてこい。」

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