【日常捜査ファイルNo.188】「あと一回だけ」と言ってから一回で終わったことがない事件
【日常捜査ファイルNo.188】「あと一回だけ」と言ってから一回で終わったことがない事件
- 事案名称: 最終宣言・無期限延長現象、通称「ラスト・ワン・モア・パラドックス(終わらない儀式)」
- 警戒レベル: ★★★★★(「次で勝ったら寝る」「負けたままでは終われない」という完璧な理論武装によって、気づけば空が白み始める致死量の睡眠負債)
- 捜査難易度: ★★★★☆(己の口で「これが最後だ」と力強く宣言したにも関わらず、その音声データが脳内に1秒も記録されない完全なる心理的密室のため)
- 被害対象: 深夜のゲーム、動画視聴、あるいはSNSのスクロールにおいて、自らの自制心が豆腐以下の強度である事実から目を背け続けているすべての哀れな現代人たち
- 目撃情報: 時計の針が深夜2時を回ったのを確認し、「よし、これで本当にラスト!」と呟いた30分後、血走った目で全く同じテンションのまま「次こそラスト!」と画面に向かって叫んでいる姿
現場証言:被害者たちの叫び
「レストラン経営ゲームで『今日の営業が終わったら寝よう』と決めたのに、全自動化のコンベアの配置が気になり出し、気づけば朝までピザを焼き続けていました。現実の私は朝食すら食べていないのに。」
(会社員)
「動画サイトで『これを見たら寝る』と決めていたのに、関連動画に『絶対に笑ってはいけない〇〇』が出てきてしまい、結果的に5回連続で『あと一回』を更新しました。」
(フリーランス)
「『あと一回』とは、現代社会における最も信用できない呪文なのだよ。我々は自らの脳を騙すためだけにその言葉を吐き、そして毎回喜んで騙されているのだ。」
(ベテラン被害者)
導入:事件発生のファイル
フゥ……。人間という生き物は、どれほどコンクリートジャングルで論理的かつ計画的にミッションを遂行できるタフガイであろうとも、夜更けの娯楽の前では「己の欲望を制御するブレーキ」をあっさりと失う哀れな存在のようだな。
名もなき街の片隅にあるアジトで、私は深くため息をつきながら、冷蔵庫から取り出したミラクルエナジーVのプルタブを弾き、喉に流し込んだ。
今回の事件は、我々が過酷な一日の終わりに「少しだけの休息」を求めたはずが、突如として終わりのない無限ループへと引きずり込まれる極悪非道なタイム・ハッキング・ミステリーである。
あなたは深夜、趣味の時間に没頭している。時計を見ると、そろそろ寝なければ明日に響く時間だ。
「フッ……大人の引き際ってやつを見せてやる。あと一回プレイ(あるいは視聴)したら、スマートにベッドへ向かうぜ。」
しかし、その「最後の一回」が終わった瞬間、あなたの指は勝手に「次へ」のボタンを押している。
なぜ我々は、はっきりと終了条件を自ら設定したにも関わらず、その契約をいとも簡単に破棄してしまうのか。この「強制ワン・モア・バグ」の真相を、私が暴き出してみせよう。
展開:容疑者一覧(終わらない儀式の黒幕たち)
「うーむ……これは実に興味深い。これほどまでに完璧なタイミングで、俺の貴重な睡眠時間を、ただの『終わりのない耐久レース』へと引きずり下ろしてくるとは。」
私は思考の海へと深く潜っていった。当日常捜査課がリストアップした、3つの恐るべき容疑者をここに記す。
- 第一の容疑者:脳の「サンクコスト・エスカレーション(敗北の拒絶)」最後の一回で失敗や敗北を喫した場合、「こんな泥臭い結末で今日を終わらせるわけにはいかない」という謎のプライドが発動し、勝利という名の美しいエンディングを迎えるまで強制延長戦に突入する心理的バグ。
- 第二の容疑者:ドーパミンの「ビクトリー・トラップ(勝利の余韻)」逆に最後の一回で大成功を収めた場合、「今、完全に俺のターンが来ている。この流れに乗らない手はない!」と脳が錯覚を起こし、結果的に成功体験を上書きしようとして沼にハマる生物学的な罠。
- 第三の容疑者:画面の魔物「タイム・イーター(時間を喰らう者)」モニターの裏側に潜む魔物が、人間が「あと一回」と呟いた瞬間に時間の進み方を3倍速に歪め、「ほら、まだ5分しか経ってないぞ」と囁きながら朝を呼び込んでいるオカルト現象だ。
オチ:華麗なる迷宮入り
事態の真相は、俺が迷惑メールのテキスト解析という地道な業務を終え、己の生存本能を研ぎ澄ますためにサバイバルホラーゲーム『Dead by Daylight』を起動したある夜、無慈悲に牙を剥いて現れるようだな……。
その日、時刻はすでに深夜1時を回っていた。
(フッ……冷酷なキラーから逃げ惑う仮想空間での生存訓練(儀式)も、今日はこれで最後だ。このマッチから華麗に生還し、熱いシャワーを浴びて寝るとしよう。)
私は決意を胸に、最後の一回に挑んだ。
しかし、そのマッチで私は開始早々に凶悪なキラーに見つかり、味方の連携も虚しく、何もできないまま地下室のフックに吊るされてあっけなく処刑されてしまった。
(……な、なんだと。こんな無様な姿で、探偵の一日を終えられるか? いや、無理だ。俺のハードボイルドな魂が、この敗北を許さない!)
私は「これが本当のラストだ」と己に強く言い聞かせ、再びマッチング開始ボタンをクリックした。
20分後。次のマッチでは奇跡的に上手く立ち回ることができ、私は仲間と共にゲートからの見事な脱出を果たした。
(フッ……完璧なエンディングだ。)
そう思ってゲームを落とそうとした瞬間、私の脳内に悪魔の囁きが響いた。
『おい、今の動き、キレッキレだったぞ。お前、今完全にノッてるんじゃないか? この状態でやめるなんてもったいないぜ。』
(……確かに。今の感覚を忘れないうちに、もう一回だけ試しておくか。いや、これが正真正銘、正真正銘のラストだ!)
『カチッ。』
次に私が我に返った時、窓の外からはスズメのチュンチュンという爽やかな鳴き声が聞こえ、デスクの上にはミラクルエナジーVの空き缶が3本転がっていた。時刻は午前6時。私は完全に「朝まで逃げ惑う男」と化していたのだ。
血走った目でモニターを睨みつける私を、キャットタワーの最上段から見下ろしていたのは、我が家の白黒の愛しき同居人(カピ主任)だった。
「『あと一回』を10回繰り返して朝を迎えるなんて、お前の辞書には『学習能力』って言葉がないのかニャ。仮想空間で逃げ回る前に、迫り来る睡魔と現実の朝から逃げてみろ。とりあえず、俺の朝ご飯の時間だからさっさとカリカリを出せ。」
「フゥ……完全なる敗北だ。」
敗北の拒絶か、勝利の余韻か。今回もまた、己の自制心をクールに統率する有能な探偵であることを証明することはできなかった。探偵帽を深くかぶり直し、私は「『あと一回だけ』という言葉は、終了の合図ではなく、終わりのない泥沼への入場券である」という血の滲むような真理を噛み締めた。謎と深夜の無限ループがそこにある限り、日常捜査課の戦いは終わらない。
【捜査報告書】
- 捜査結果決定的証拠なし(己の負けず嫌いと「ノッてる」という勘違いが見事に噛み合い、自らの手で睡眠時間を完全に粉砕した完全なる自爆であるため)
- 有力な容疑者第一の容疑者(勝っても負けても結局「もう一回」の理由をこじつけ、自制心をいとも簡単にスライム状へと溶かした俺自身のサンクコスト・エスカレーション)
- カピ主任の見解「探偵たるもの、自分の引き際くらいタイマーで管理しろ。朝日に照らされてボロボロになってる姿は、完全に夜遊びに失敗した中学生だぞニャ。今日の昼間、俺の横で白目を剥いて寝落ちするのだけは絶対に許さん。」
あなたがこれまでに「あと一回だけ」と心に誓ったのに、気づけば最も長時間やり続けてしまった(あるいは朝を迎えてしまった)のは、どんなゲームや作業でしたか?






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