【日常捜査ファイルNo.201】「何食べたい?」に「何でもいい」と答えたのに、出てきた料理には意見がある事件

【日常捜査ファイルNo.201】「何食べたい?」に「何でもいい」と答えたのに、出てきた料理には意見がある事件

事案名称: 全権委任・事後不承認現象、通称「エニシング・バット・ザット(それ以外なら何でも)」

警戒レベル: ★★★★★(「じゃあ最初から言えよ!」という正当な怒りと、「せっかく選んでやったのに」という徒労感が交差し、人間関係に修復困難な亀裂を生む致死量のストレス)

捜査難易度: ★★★★★(「何でもいい」という言葉の裏に隠された「(私の気分に完全に合致するものであれば)何でもいい」という、超能力者でなければ解読不可能な暗号を解かねばならないため)

被害対象: 相手の「何でもいいよ」という言葉を純真無垢に信じ、良かれと思って懸命にメニューを考え、提案したすべての哀れな善人たち

目撃情報: 運ばれてきた料理(あるいはデリバリーの袋)を前に、「あー、今日はちょっと重かったかな」「嫌いじゃないけど、今はこういう気分じゃなかったかも」と、悪気のない顔で致命的な刃を突き立てている姿

現場証言:被害者たちの叫び

「『何でもいい』と言うので、気を利かせて人気のイタリアンを予約したら、『昨日パスタだったんだよね』と店に入る直前に言われました。昨日のあなたの夕飯なんて知るわけがありません。」

(会社員)

「夕飯何にする?と聞いたら『任せる』と言われたのでカレーを作ったら、『えー、カレー? もっとさっぱりしたものが良かったな』と。私の手には、カレーのルーではなく怒りの炎が握られていました。」

(主婦)

「『何でもいい』という言葉は、白紙の小切手ではない。相手に『私を満足させる正解を当ててみろ』という、極めて理不尽なロシアンルーレットの引き金を引かせる呪いの言葉なのだよ。」

(ベテラン被害者)

事件発生のファイル

フゥ……。人間という生き物は、どれほどコンクリートジャングルで論理的な会話を交わそうとも、自らの胃袋の欲求を言語化することにおいては、赤ん坊以下に退行してしまう哀れな存在のようだな。

名もなき街の片隅にあるアジトで、私は深くため息をつきながら、冷えた麦茶を喉に流し込んだ。

今回の事件は、我々が他者と共に食卓を囲もうとする際、最も平和であるべき「メニュー選び」の段階で突如として仕掛けられる、極めて凶悪な心理トラップ・ミステリーである。

あなたは共に食事をする相手に、優しく問いかける。「今日、何食べたい?」

相手はスマホから目を離さず、あるいは気だるげにこう答える。「うーん、何でもいいよ。任せる。」

「フッ……全権委任というわけか。ならば、俺の完璧なチョイスで極上のディナーを約束してやろう。」

あなたは脳内のデータベースをフル稼働させ、相手の好み、最近の気候、栄養バランスを考慮し、最適解を導き出す。

しかし、いざその料理が目の前に提示された瞬間、相手の口から飛び出すのは「美味しいね」という称賛ではない。「えっ、これにしたの?」「まあ、いいけど……」という、明確な『不満』のサインなのだ。

なぜ我々は、「何でもいい」と自ら選択権を放棄しておきながら、他人の決定に対しては一丁前に審査員気取りでダメ出しをしてしまうのか。この「強制エニシング・バット・ザット・バグ」の真相を、私が暴き出してみせよう。

容疑者一覧(それ以外なら何でもの黒幕たち)

  • 第一の容疑者:脳の「レイジー・プロファイリング(思考の放棄と後出しジャンケン)」自分でも何が食べたいか分からない(考えるのが面倒くさい)ため一旦「何でもいい」と投げるが、具体的な料理を提示された瞬間に「それは違う」という己の潜在的な好みに気づいてしまう、卑怯極まりない脳のバグ。
  • 第二の容疑者:心理学の「パッシブ・アグレッシブ(受動的攻撃性)」直接的に要望を伝えるのではなく、相手に察してもらおうとする甘え。提案を却下することで、無意識のうちに「私のことをもっと理解してよ」というマウントを取ろうとする歪んだ承認欲求。
  • 第三の容疑者:食卓の魔物「ノー・サンキュー・イーター(見えない美食家)」「何でもいい」という言葉を栄養源にする魔物が、相手の肩に憑依し、どんな料理が出されても「なんか違う」と文句を言わせることで、その場にいる全員の食欲と空気を破壊するオカルト現象だ。

華麗なる迷宮入り

事態の真相は、私が過酷な張り込み調査を終えたある週末の夜、悪友のカンパニーとアジトで夕食をとることになった際に無慈悲に牙を剥いて現れるようだな……。

その日、半世紀と1年の人生を生き抜き、疲労の蓄積した体に鞭打ってミッションをこなした私は、極限まで腹を空かせていた。

「おいカンパニー、デリバリーを頼むぞ。何が食いたい? 俺の奢りだ。」

私が愛用のGoogle Pixel 11 Pro XLを片手に尋ねると、彼はソファーでくつろぎながら適当に返事をした。

「おっ、ごちそうさまです。俺は何でもいいですよ。任せます。」

(フッ……任せると言ったな。ならば、ガッツリとエネルギーを補給できるものがいいだろう。)

私はUberEatsのアプリを立ち上げ、脳内で完璧な推し量りを行った。普段彼とサイゼリヤで卓を囲む時の傾向も考慮しつつ、今日は少し趣向を変えて、肉汁溢れる豪快な特製ハンバーグ弁当を二つ注文した。

数十分後。玄関先に届いた温かい袋を受け取り、私は勝利を確信してテーブルに弁当を広げた。

「さあ、食おうぜ。特製デミグラスハンバーグだ。」

しかし、カンパニーはパッケージを見た瞬間、少しだけ眉をひそめ、あからさまにテンションの低い声を出した。

「あー……ハンバーグっすか。いや、全然いいんですけど。ちょっとさっきまで、あっさりしたうどんとか、蕎麦の気分だったかなって……いや、食いますよ? もちろん。」

(な、なんだと……!? 貴様、さっき「何でもいい」と言っただろうが!)

私のハードボイルドな精神が、怒りで音を立てて軋んだ。

「なら最初から蕎麦って言え! なんで出された瞬間に『気分じゃなかった』なんて言うんだ! お前が食べたいものを当てるクイズ大会じゃないんだぞ!」

「いや、出されて初めて『あ、俺今肉の気分じゃなかったんだな』って気づいたんですよ。人間の深層心理ってやつっすかね。」

悪びれもせずハンバーグを箸で切り分けるカンパニーの姿に、私は膝から崩れ落ちそうになった。

その時、足元で「ミャァ」と声がした。

見下ろすと、我が家の白黒の愛しき同居人(カピ主任)が、空になった自分のエサ皿と私を交互に見つめていた。

「他人の『何でもいい』を真に受けるから自爆するんだニャ。猫でさえ『マグロ味がいい』って毎日全身でアピールしてるぞ。さあ、俺には最高級のパウチを出せ。カリカリを出したら暴れるからな。」

「フゥ……完全なる敗北だ。」

思考の放棄か、受動的な甘えか。今回もまた、他人の胃袋の深層心理をクールに読み解く有能な探偵であることを証明することはできなかった。探偵帽を深くかぶり直し、私は「『何でもいい』という言葉は『(私がその瞬間に思い描いている正解と完全に一致するものなら)何でもいい』の略語であり、絶対に信じてはならない」という血の滲むような真理を噛み締めた。謎と理不尽な不満がそこにある限り、日常捜査課の戦いは終わらない。

捜査報告書

  • 捜査結果決定的証拠なし(相手の言葉を額面通りに受け取った己の甘さが、結果的に「求めていなかった重い肉料理」を突きつけるという悲劇を生んだため)
  • 有力な容疑者第一の容疑者(自分の欲望すら言語化できないくせに、実物を見た瞬間にだけ鋭い批評家へと豹変する、カンパニーのレイジー・プロファイリング)
  • カピ主任の見解「探偵たるもの、『何でもいい』と言われたら『じゃあ今日は塩水な』と返すくらいのハードボイルドさを持て。文句を言いながらハンバーグを完食してるそいつの胃袋も大したもんだニャ。俺のおやつはまだか。」

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