【日常捜査ファイルNo.205】「今度ご飯行こう」が数年間実現しない事件

【日常捜査ファイルNo.205】「今度ご飯行こう」が数年間実現しない事件

事案名称: 社交辞令・永久凍土現象、通称「ネバーエンディング・ディナー・プロミス(叶わぬ晩餐の誓い)」

警戒レベル: ★★★★★(「行く行く詐欺」を繰り返すうちに、お互いの連絡先がスマホの奥底で化石化し、次に突然連絡が来た時にはマルチ商法の勧誘か壺を売られるのではないかと疑心暗鬼になる致死量のプレッシャー)

捜査難易度: ★★★★☆(双方がその場では「本当にいつか行きたい」と1ミリくらいは本気で思っているため、完全な嘘として処理しきれず、いつまでも心の片隅に「未消化タスク」として残り続ける完全なる心理的密室)

被害対象: 街角での偶然の再会や、年末年始のLINEのやり取りで、勢い任せに「絶対行こうね!」とスタンプを送り合ったすべての哀れな現代人たち

目撃情報: 「じゃあ、また落ち着いたら連絡するわ!」と爽やかに手を振って別れた直後、カレンダーの向こう3ヶ月の予定のどこにも、その人物と会う隙間(あるいは気力)が存在しないことを無意識に悟っている姿

現場証言:被害者たちの叫び

「高校の同級生と『近々飲もう!』と約束してから早5年。ついにお互い『近々』の定義がオリンピックの開催周期と同じになってしまいました。」

(会社員)

「『今度ご飯行こう』と言われたので『来週の金曜か土曜はどう?』と具体的な日程を提示したら、相手から3日間未読スルーされました。私は見えない壁に激突した気分です。」

(フリーランス)

「『落ち着いたら』という言葉は、大人の辞書において『一生来ない未来』と同義なのだよ。我々は明日も明後日も、永遠に落ち着くことなどないのだから。」

(ベテラン被害者)

事件発生のファイル

フゥ……。人間という生き物は、どれほどコンクリートジャングルで論理的かつ合理的に生きようとも、対人関係の潤滑油として「架空の未来の食事」を約束せずにはいられない、極めて業の深い存在のようだな。

名もなき街の片隅にあるアジトで、私は深くため息をつきながら、愛飲しているミラクルエナジーNEOのプルタブをハードボイルドに弾き、喉に流し込んだ。

今回の事件は、我々が知人と遭遇し、無事に会話を終えて別れようとするその最終局面に突如として仕掛けられる、極めて凶悪なタイム・トラップ・ミステリーである。

あなたは旧友と街で偶然再会する。立ち話で近況を報告し合い、互いに「そろそろ行かなきゃ」という空気が流れる。

「フッ……元気そうで何よりだぜ。じゃあ、俺はこれで。」

スマートに立ち去ろうとするあなたに、相手は笑顔でこう言い放つのだ。

『また今度、ゆっくりご飯でも行こうよ!』

あなたの脳内で、反射的なプログラミングが作動する。

『ああ、絶対行こう。また連絡するわ!』

なぜ我々は、具体的な日時も場所も決まっていない架空の晩餐を、さも明日開催されるかのように固く誓い合ってしまうのか。この「強制ネバーエンディング・ディナー・バグ」の真相を、私が暴き出してみせよう。

容疑者一覧(叶わぬ晩餐の誓いの黒幕たち)

  • 第一の容疑者:脳の「ソーシャル・モラトリアム(社交的先送り)」「今すぐ予定を合わせるのは面倒だが、縁は切りたくない」という人間のズルい防衛本能が、予定を無限の未来へと先送りすることで、その場を平和にやり過ごそうとする心理的エラー。
  • 第二の容疑者:現代社会の「タイム・インフレーション(忙しさのデフレ)」「暇になったら行く」という条件付きの約束だが、現代人はスマホや動画、日々のタスクに追われ続けているため、「暇」という資源の価値が暴騰しており、数年経っても支払うことができないという社会構造の罠。
  • 第三の容疑者:通信の魔物「スタンプ・クロージャー(会話を断ち切る者)」LINEの画面の奥に潜む魔物が、「お辞儀しているスタンプ」を送信させた瞬間、双方の脳に「この会話(ミッション)は完了した」という強烈な錯覚を植え付け、予定を決めるという本来の目的を完全に忘れさせるオカルト現象だ。

華麗なる迷宮入り

事態の真相は、私がかつて派遣社員として激務をこなしていた時代にお世話になった同僚と、近所のスーパーの前で偶然再会したある日の午後、無慈悲に牙を剥いて現れるようだな……。

その日、私は愛車のトヨタ スペードに乗り込もうとしていた。

「おお、久しぶりです!」

振り返ると、かつての派遣先で共に汗を流した男が立っていた。

(フッ……懐かしい顔だ。あの過酷な現場を共に生き抜いた戦友じゃないか。)

「おっ……久しぶりだな。元気にしてたか?」

立ち話で互いの近況を語り合う。彼も私も、気がつけばお互いにそれぞれの戦場でそれなりに歳を重ねていた。

「相変わらずですね! いやー、久しぶりに積もる話もあるし、今度絶対にメシ行きましょうよ! 昔よく仕事終わりに行ったサイゼリヤで、またミラノ風ドリアでも食いながら!」

「フッ……悪くないな。サイゼリヤなら俺もよく行く。ぜひ行こう。」

私は内ポケットからGoogle Pixel 11 Pro XLを取り出し、LINEの画面を開いた。

「じゃあ、またお互い落ち着いたタイミングで連絡するわ。」

「はい! 楽しみに待ってます!」

我々は固く握手を交わし、爽やかな笑顔で別れた。帰宅後、私は彼に「今日は偶然会えて嬉しかった。またゆっくりメシ行こう!」とメッセージを送り、彼からも「ぜひ!」という元気なスタンプが返ってきた。

——それから、1年半の月日が流れた。

アジトのソファーで、私は無表情のままPixelの画面をスクロールし、彼のトーク履歴を見つめていた。

そこには、1年半前に交わした「ぜひ!」というスタンプが、まるで時が止まったかのようにポツンと残されているだけだった。

私も連絡しなかったし、彼からも連絡は来なかった。お互いに「落ち着く」日など、1日たりとも来なかったのである。

(な、なんだと……!? あんなに熱く語り合ったミラノ風ドリアの約束は、ただの蜃気楼だったというのか!)

私がスマホを握りしめて天を仰ぐと、キャットタワーの最上段から、我が家の白黒の愛しき同居人(カピ主任)が見下ろしていた。

「『いつか』なんて悠長なこと言ってるから実現しないんだニャ。本気で行きたいなら、その場で『来週の金曜の19時』って指定しろ。社交辞令に浸ってる暇があったら、俺の高級パウチのフタを開けるのが先だぞ。」

「フゥ……完全なる敗北だ。」

社交的先送りか、忙しさのデフレか。今回もまた、約束の地(サイゼリヤ)へ友を導く有能な探偵であることを証明することはできなかった。探偵帽を深くかぶり直し、私は「『今度ご飯行こう』という言葉は、『さようなら、あなたが元気でいることを遠くから祈っています』という現代の美しい別れの挨拶に過ぎない」という血の滲むような真理を噛み締めた。謎と未読の連絡先がそこにある限り、日常捜査課の戦いは終わらない。

捜査報告書

  • 捜査結果決定的証拠なし(「落ち着いたら連絡する」と自ら主導権を握ったフリをしておきながら、見事に1年半放置した己の怠慢と社交辞令の乱用であるため)
  • 有力な容疑者第一の容疑者(相手から誘ってくるのを待ち、自分からは具体的な日程を決して出そうとしない、俺自身のソーシャル・モラトリアム)
  • カピ主任の見解「探偵たるもの、自分のスケジュールくらいその場で即決しろ。お前みたいな奴が『行く行く詐欺』の常習犯になるんだニャ。次誰かに会ったら『今から行こう』って拉致するくらいの行動力を見せろ。」

あなたがこれまでに「今度ご飯行こう」と約束して、一番長期間そのまま放置(熟成)させてしまっている相手は、どんな関係の人ですか?

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